今季のNBAファイナルで、誰もが待ち望んだカードが実現した。
 レブロン・ジェームス、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュという“ビッグ3”を擁するマイアミ・ヒートが、ケビン・デュラント、ラッセル・ウェスツブルックといった若き俊才たちに率いられたオクラホマシティ・サンダーと激突。実力、注目度の両方を兼ね備えた両チームの対決は、現在のNBAでは考えうる限り最高のマッチアップだと言ってよい。
(写真:決戦の舞台となるオクラホマシティ、マイアミは熱気に包まれている)
 しかし、この大舞台でより大きなプレッシャーを感じているのは、ヒート、そして、その大黒柱であるレブロンであるに違いない。“選ばれし者”とのニックネームを冠され、これまでリーグを代表するスーパースターとして君臨して来たレブロン。2010年オフにはボッシュとともにウェイドの待つヒートに移籍し、そこで空前のパワーハウスを形成すると、直後に「5、6、7、8度は優勝してみせる」と高らかに宣言した。

 にもかかわらず、昨季のファイナルではヒートはダラス・マーベリックスに2勝4敗で惨敗。シリーズ中に力を発揮できなかったレブロンは、ここで痛烈な批判にさらされる結果となった。
 もしも今季、再び敗れれば、レブロン個人としてはファイナル3連敗(クリーブランド・キャバリアーズ時代の2007年ファイナルでもサンアントニオ・スパーズに0勝4敗で敗れている)。囁かれ始めた“ビッグゲームに勝てない選手”という評価を、また裏付けることになってしまうのだろう。
(写真:2012年ファイナルはレブロンのレガシーを左右する大一番である Photo By Jung-Hwan Seo)

 このファイナル進出を決める前、イースタンカンファレンス・ファイナルのボストン・セルティックス戦でもヒートは大苦戦を強いられた。
 ケビン・ガーネット、ポール・ピアース、レイ・アレンという元祖“ビッグ3”が30代半ばに差しかかり、すでに全盛期を過ぎたとみなされていたため、事前の予想はヒート圧倒的有利。そのセルティックスにヒートは第3戦以降、まさかの3連敗を喫し、敗退寸前に追い込まれることになった。

「セルティックスはすごいチームだよ。彼らを最大限に尊敬している。もともと僕たち3人がヒートに集まったのは、セルティックスの成功が原因だった。2007年に彼らがボストンに集まり、やり遂げたことを青写真にしたんだよ」
 レブロンは約1年前にそう語り、ウェイドというもうひとりのスーパースターが待つヒートに移籍した理由を説明していた。その移籍劇から2年が過ぎ、ここで老雄セルティックスに再び敗れるようなことがあれば、そのレガシーにとてつもないダメージがもたらされていたのだろう。
 
 しかし、この瀬戸際でレブロンは大爆発。第6戦では45得点、15リバウンド、5アシストと鬼神の働きをみせ、敵地でセルティックスを粉砕する原動力となった。さらに最終第7戦でも31得点、12リバウンドと効果的なプレーを続け、宿敵を何とか振り切ることに成功している。

 この第6、7戦での鬼気迫るプレーは、今季、自己通算3度目のMVPを獲得したスーパースターらしいものだった。ディフェンス、パスワークまで併せ、総合的な能力でやはりレブロンは群を抜いている。コービー・ブライアント(ロサンゼルス・レイカーズ)やデュラントといったライバルたちも素晴らしい選手ではあるが、レブロンこそが現役ベストプレーヤーであることに多くの関係者が同意するはずだ。

 ただ……それでも、このファイナルでも活躍を続けなければ、カンファレンス・ファイナルでの爆発など世間はすぐに忘れてしまう。
 それこそが、全米を騒がせる形でマイアミのパワーハウスに移籍したレブロンにとって、知らずのうちに背負った重い十字架でもある。フェアかアンフェアかは別にして、今後しばらく、レブロンのキャリアの評価は常にシーズンの最終結果だけで下されてしまうのだろう。
(写真:ウェイドの効果的な助けも必要になってくるに違いない)

 最終決戦で相見えるサンダーは簡単に勝てるチームではない。
 今季まで3年連続得点王のデュラントは、得点のセンスと終盤の勝負強さではレブロンをも上回る。さらにウェストブルック、ジェームス・ハーデン、セルジ・イバーカといった若きタレントを数多く擁したサンダーは、全体の層の厚さでヒートより上。今シリーズの予想もややサンダー有利に傾いており、案の定、オクラホマシティでの第1戦ではサンダーが勝利を飾った。

 第2戦ではヒートが勝ってシリーズは1勝1敗のタイに戻ったが、勝負の行方はまだ予断を許さない。現地時間17日より舞台をマイアミに移し、2012年NBAファイナルはついに佳境を迎えることになる。
 ウェイド、ボッシュらのコンディションが未だに万全でなく思える中、地元に戻ってからもレブロンにかかる負担は大きい。カンファレンス・ファイナルの第6、7戦同様とは言わないまでも、それに近い活躍が随所に必要になってくるはずだ。
(写真:デュラント、ウェストブルックといったタレントを擁するサンダーは強敵だ)

 高校時代から“選ばれし者”と呼ばれた怪物は、3度目のファイナルの舞台でどんな結末を導き出すのか。戦況不利と言われる中で、もしもヒートをドラマチックな形で頂点に導けば、“現役最強選手”の称号は確固たるものとなるに違いない。しかし、力及ばず敗れれば、たとえ、それがレブロンの責任ではなかったとしても、風当たりはこれまで以上に強くなる。

 一挙一動が注目される現代の風雲児、レブロン・ジェームスにとって、今季のNBAファイナルは負けることが許されない大一番。“審判”が下される日は間近に迫っている。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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