なぜ日本はこんなに強くなったのか。ここのところ、行く先々でそう聞かれる。ヨルダン戦の後半はまったくいただけなかったし、オーストラリア戦の前半もさっぱりだった。それでも、「日本は強くなった」と感じている人が多数派になりつつあるのは間違いない。
 もちろん、日本の強さよりも相手のオマーン、ヨルダンの不甲斐なさが気になってしまう人もいるだろうが、それでも、ここ数試合の日本が、近年稀に見るほど楽しく、美しいサッカーをやっているということに関しては、概ね賛同していただけるのではないか。

 ではなぜ、日本は変わったのか。原因はむろんひとつではないが、まず第一に挙げられるのは「本田不在で戦った経験」だろう。

 ご存じの通り、本田はケガで昨シーズンをほぼ棒に振っている。日本代表は、南アフリカで絶対的エースとなった男を欠いた状態で3次予選を戦い、本田不在でも十分に戦っていけるチームとなった。

 そこに、本田が帰って来た。以前よりも明らかにスケールアップして帰って来た。本田不在でも成り立っていたチームは、新しい本田が加わったことで劇的な化学反応を起こした。たとえは悪いが、あらかじめ抜いた血液をレース直前に戻したようなもの、と言えるかもしれない。そして、実際の行為とは違い、いささかも不当なところのないこの“合法的ドーピング”が、オマーン戦、ヨルダン戦の爆発を生んだとわたしは見ている。

 ただ、サッカーにおける化学反応は恐ろしいほどに気まぐれである。グァルディオラのバルサは、“メッシ頼み”という批判を克服することでスーパーチームとなったが、メッシがさらに成長したことで、絶妙だったバランスは崩れてしまった。似たようなことが、今後の日本に起こらないとは限らない。

 ただ、いささかバランスが崩れることがあっても、それが致命的なものになる可能性は少ないのでは、という思いもある。というのも、W杯南アフリカ大会までの日本は「勝つために、あるいは負けないためにどうするか」を腐心するチームだったが、ザッケローニ監督がやっているのは「どうやって勝つか」というチーム作りだからである。

 目的のために手段を考えるチームは、相手によってサッカーを変えなければならない。いまの日本は違う。まだ自分たちのやり方に自信を持ちきれていない部分があることは、オーストラリア戦の前半でよくわかったが、やり方を思い出せばオーストラリアを圧倒できることもわかった。結果はともかく、このチームが今後も魅力的なサッカーを展開してくれることは、ほぼ間違いない。

<この原稿は12年6月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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