藤澤和心(日本体育大学女子サッカー部/愛媛県松山市出身)最終回「15得点に絡み、代表へ」
「代表候補合宿やトレセンで関東の選手と一緒に練習をしたり、全国大会で対戦してみて、関東のレベルの高さを感じました。そういう人たちと一緒にサッカーをしてみたいと思うようになりました」
藤澤和心(ふじさわ・なごみ)は高校卒業後の進学先を関東の強豪大学2校に絞った。最終的には練習に参加した時の直感で決めた。
「先に行った早稲田大学はクラブチームっぽくて、選手一人一人が自立していると感じました。それも魅力的でした。その後に練習に参加した日体大はウォーミングアップ時に全員で声出しをしたり、早稲田大学とはガラッと雰囲気が違いました。愛媛に帰る時には“日体大に行きたい”と思いました」
日体大女子サッカー部は全日本大学女子サッカー選手権大会(インカレ)で、最多優勝(2023年当時は18回)を誇る名門だ。また同大女子サッカー部を内包するクラブチームである日体大SMG横浜は、アマチュア女子サッカー最高峰の「なでしこリーグ」に参戦していた。藤澤は自らの成長のために厳しい環境に身を置きたいと思い、横浜行きを選んだ。
既になでしこリーグでプレー経験のある藤澤は、1年時から出場機会に恵まれたものの、自身の体感では「ついていくのに必死だった」という。
「スピード感や日体大のレベルの高さについていけなかったので、もどかしさはありました。試合には絡めていましたが、“自分はこれでいいのか”という悩みは1年を通してありました」
3バックの左で起用されることもあり、慣れないポジションに苦心した。
それも2年時には解消した。得意のポジションでプレーをする機会を得たからだ。なでしこリーグ開幕時は左サイドハーフ。次第に左サイドバックのレギュラーに定着した。「やることが分かりやすくなった」と藤澤。左サイドで躍動し、インカレ5年ぶりの優勝に貢献した。
25年春、3年生となった藤澤はチームの副キャプテンを任された。
「オフフィールドの部分で、今までよりも求められることが増えました。自分が前に立って話すことや誰かに強く言うことは苦手であまりやってこなかった。時にはそういうことをしなければいけない立場になり、“どうしたら伝わるかな”“何て言えばいいかな”と悩むこともありました」
彼女を副キャプテンに指名したのは、25年シーズンから指揮を執る嶋田千秋監督だ。
「3年生も一緒にチームを引っ張って欲しかった。藤澤自身がリーダーシップを持ち、1年間プレーすることが来年以降のチームにつながると思いました。彼女にはチームの中心になって欲しいという願いを込めて副キャプテンを任せました」
しかし、藤澤は25年のシーズン、苦しんだ。チームも低迷。彼女自身、試合に出場できない時間が増えた。
「嶋田監督に代わって新しいサッカーに挑戦しました。味方や対戦相手に応じて柔軟にプレーすることが求められる。監督は選手たちがどのチームに行っても通用するサッカーを目指しています。それは頭でわかっていても体現するのが難しかった」
いつしかサッカー自体が楽しめなくなっていた。
「やれないことはない」
スランプを抜けたのは、ある試合で、サイドハーフでプレーしたことがきっかけだった。ふと気付いたのだ。無心でサッカーを楽しんでいた自分に。
「そこで、あまり考え過ぎるのは良くないと思うようになりました」
伸び伸びプレーできるようになり、失いかけていた自信を徐々に取り戻していく。
チームはなでしこリーグ1部残留を果たし、藤澤はリーグ戦2得点を挙げた。ベスト8入りした皇后杯JFA全日本女子サッカー選手権大会(皇后杯)では、2回戦で直接FKを決めた。準優勝したインカレでも全5試合にフル出場し、1得点。チームを2年連続決勝に導いた。
25年12月には日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の日テレ・東京ヴェルディベレーザ入り内定が発表された。「サイドバック、サイドハーフ、ウイングができることと、スピードとクロスの精度を評価していただきました」と藤澤。同年10月10日付けで特別指定選手として登録されており、今季(25-26シーズン)中のWEリーグデビューも可能な位置にまで辿り着いた。
日体大監督の嶋田は、藤澤のこの1年の成長ぶりをこう称えた。
「この1年で戦術理解のところで成長したと思います。去年までとはサイドバックに求められることがだいぶ違いますし、彼女自身、シーズン初めの頃はだいぶ悩み、試合に出られない時期がありました。今年はいろいろなポジションを経験したことによって、サッカー観の幅が広がったと思う」
この春からは最終学年となり、チームをより一層引っ張っていくことが求められる。ホットラインを築いていた左サイドハーフの篠田帆花(現WEリーグ・マイナビ仙台レディース)、FW北沢明未(現WEリーグ・ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)ら主力が卒業する。
「ずっと試合に出ていた人たちが抜ける寂しさはあります。だけど残った人たちにも違う良さがあり、面白い選手が揃っています。練習を積み重ね、コンビネーションを合わせていけば、新たなチームの強みも出てくると思うので、楽しみです」
新シーズンに向けては、こう意気込む。
「インカレは絶対優勝したい。なでしこリーグはここ数年、思うような結果を残せていないので、最初から勝ち星を掴み、自分たちの色を出せるようにしていきたいですし、上位に食い込みたいです」
続けて「個人として数字の目標はありますか?」と聞くと、こう答えが返ってきた。
「『目標は数字でわかりやすくした方がいい』と、お父さんによく言われてきました。今年の目標はなでしこリーグで15得点に絡むことです」
父・厚年(あつとし)は言う。
「和心はどんな壁に当たっても『やれないことはない』と言うんです。すると、そのうちできるようになる。日体大に入った時も『周りが上手くてとにかく大変。今はできないけど、でも、やれないことはない』と言っていました。それがアイツの口癖で、それを聞くと“また伸びるな”と思わせてくれるんです」
小学生の時に書いた目標シートのゴールは日本代表入りだ。本人によれば、その距離感は「今はちょっと遠い」ところにあるという。日の丸のユニホームは、名門ベレーザでポジションを勝ち取り、活躍することで徐々に近付いてくるだろう。左サイドでアップダウンを繰り返す献身的なチャンスメーカーのさらなるステップアップに期待したい。
(おわり)
<藤澤和心(ふじさわ・なごみ)プロフィール>
2005年3月3日、愛媛県松山市出身。帝人サッカースクール-愛媛FCレディースMIKAN U15-愛媛FCレディースMIKAN U18-日体大SMG横浜(日本体育大学)。2歳上の兄の影響で小学生1年時にサッカーを始める。中学進学時に愛媛FCレディースの下部組織である愛媛FCレディースMIKANに入団。高校2年時に愛媛FCレディースの下部組織選手登録で、なでしこリーグに13試合出場。翌シーズンは20試合で2得点を挙げた。23年、日本体育大学に進学。1年時から出場機会を得て、2年時より左サイドバックのレギュラーとして定着した。豊富な運動量と左足のキック精度を武器に活躍し、全日本大学女子サッカー選手権大会の優勝に貢献した。大学3年時には日テレ・東京ヴェルディベレーザの「2025-2026年JFA・WEリーグ特別指定選手」として認定された。また同クラブへは、大学卒業後の入団が内定している。身長161cm。左利き。
(文・写真/杉浦泰介)

