新生K-1の日本大会が近づいている。
 10月14日、両国国技館において、無差別級トーナメント1回戦8試合が組まれている『K-1 WORLD GP FINAL16』が開催されるのだ。ミルコ・クロコップ(クロアチア)らが参戦予定。日本におけるヘビー級を中心としたK-1の大会開催は、2010年12月11日、有明コロシアム大会以来、実に1年10カ月ぶりのことである。
(写真:イベントプロデューサーに就任した魔裟斗は来年から9階級のトーナメントを実施する考えだ)
 昨年は『K-1 WORLD GP』は開催されなかった。1993年の第1回大会(優勝者はブランコ・シカティック=クロアチア)から2010年まで18回続いた世界最強のキックボクサーを決する大会にピリオドが打たれたのだ。
 とても残念なことだった。そして、この悲劇は天災ではなく人災だった。原因は主催者の先を見ていない杜撰な運営にあったのだ。全盛期にK-1を競技として確立することを怠り、テレビの視聴率ばかりを気にし、放映権料に目をくらませ続けた末の結果だった。

 何故、競技としての確立を優先しなかったのか? 何故、人気が低下しても、たとえ小規模化してもイベントを継続する土台作りをしなかったのか?
 答えは主催者が、格闘技を愛する者ではなく単に興行好きに過ぎなかったからだ。「情けない」と思う。

 K-1の主催会社であったFEG(谷川貞治代表)は倒産した。新生K-1は「K-1 Global Holding Limited」の主催で開かれる。もう、2度と同じ失敗を繰り返してはならない。派手さで人気取りに走るのではなく、試合の質を高めることで競技を熟成させて欲しいと願う。

 個人的には「一見さんお断り」の札を吊るすくらいの気持ちでやってもらいたい。浮動票的ファンは、すぐに集まるが、同時にすぐに離れていく。そうではなくて、最初は数が少なくても生涯、格闘技を愛するディープなファンを徐々に増やしていってほしいのだ。そのことが、大会の永続につながるだろうから。

 さらに今年12月には、オランダのゴールデン・グローリーが母体となっているキックボクシングイベント「グローリー・ワールドシリーズ」の東京大会『ヘビー級グローリー・グランドスラム』の開催が発表されている。このトーナメントには、セーム・シュルト(オランダ)、レミー・ボンヤスキー(同)、ピーター・アーツ(同)、エロール・ジマーマン(同)、ジェロム・レ・バンナ(フランス)、グーカン・サキ(トルコ)、セルゲイ・ハリトーノフ(ロシア)ら、かつてK-1のリングで活躍していたファイターたちが参戦する模様。日時、場所を決しての正式発表を待ちたい。

 K-1が復活し、キックボクシングのヘビー級のビッグイベントが開かれれば、その波は総合格闘技にも及ぶ。今年に入ってから「DREAM」は、まだ一度も開かれていないが、近い将来、動きがあるはずである。

 格闘技は、このまま終わってしまうのか? 否だ。
 すぐに人気を回復するのは難しいだろう。それでも、地に足をつけた大会が続けられるなら、リオデジャネイロ五輪が開催される4年後には復活の兆しが見えていることを期待する。格闘技は復興に向けて船を動かし始めた。その舵取りを2度と間違えてはならない。


 最後になったが、さる9月1日、プロレス評論家の菊池孝さんが、誤嚥性肺炎により、亡くなった。享年79。
 菊池さんには、私がまだ10代で、『週刊ゴング』誌の学生アルバイト記者だった頃から、いろいろとお世話になった。仕事のことだけではなく、酒の席で、さまざまなことを教えて頂いた。業界の重鎮でありながら、もの凄くフランクで、私のような若造にも親身に接して下さった。本音の会話ができる大先輩でした。淋しい。ご冥福をお祈りいたします。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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