サッカーは、必ずしもスコアが内容を表すとは限らない競技だが、それでも、1点差なら惜敗、2点差ならば完敗、3点差となれば惨敗……といった感覚を選手は持っているはずである。ドイツ相手にお0−3で敗れたヤングなでしこたちの受けた衝撃は、相当なものがあったに違いない。
 ただ、わたし個人としては、あの3点差負けは、最上級の3点差負けではなかったか、という印象を持っている。
 評価したいのは、後半の戦いぶりである。
 前半のドイツは強かった。そして、ヤングなでしこはモロかった。あのままの展開が続くのであれば、3点差はおろか、惨劇と言える点差を付けられていてもおかしくはなかった。

 ところが、ハーフタイムをはさむと試合内容は一変していた。もちろん、セーフティーリードを得たドイツがペースダウンをしたという面はあったが、それ以上に日本が変えた、という側面の方が大きかったように思う。後半だけに限って言えば、内容、決定機の数ともに勝っていたのは日本だった。

 前半の試合内容を考えれば、これはなかなかできることではない。
 どんなカテゴリー、どんなレベルのチームにとっても、一度手放してしまった自分たちの流れを取り戻すのは難しい。ロンドンで4位に入った男子代表は、準決勝のメキシコ戦で同点弾を喫してからは、続く3位決定戦を含め、二度と自分たちのリズムで戦えなくなってしまった。

 だが、彼らよりもはるかに若く、はるかに経験も少ない日本の少女たちは、ロンドンで日本の青年たちがメキシコに食らったよりもはるかに大きな衝撃を受けながら、それでも立て直し、盛り返すことに成功した。吉田監督の手腕も含め、このことには最高級の賛辞を贈りたい。

 今後、彼女たちの進むべき道は3つある。一つ、ドイツに負けない体力、スピードを身につける。一つ、体力、スピードに圧殺されない技術レベルを目指す。一つ、その両方を目指す。どの道を目指すにせよ、この大会で彼女たちが受けた衝撃は、これからの険しい道を進んでいくうえで最高のエネルギーとなってくれるはずだ。

 17歳の時、初めて世界大会に出場した中田英寿は、ナイジェリアの運動能力に気が遠くなるほどの衝撃を受けたという。それでも、彼は、日本は、その衝撃、ハンデを克服した。いまは絶対的なものに感じられているであろうドイツの壁も、実は、決して登攀不可能なものではない――それだけは、若きなでしこたちに伝えておきたい。

<この原稿は12年9月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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