6年目を迎えた今季、後期も佳境を迎えています。前期は上信越地区では新潟アルビレックスBCが、北陸地区では石川ミリオンスターズが、ともに6割以上という過去にないほどの高い勝率で優勝しました。しかし後期では、新潟がさらにとんでもない勝率で独走しています。11日現在、29試合を終えた新潟の勝率は、なんと8割2分8厘。前期に続いて後期も驚異的な強さを見せつけて優勝しました。後期は、わずか5回しか負けていないのです。
 いったい新潟の強さは、どこにあるのでしょうか。もちろん、根底には昨季1年間かけて選手の意識改革を行なった橋上秀樹前監督(現・巨人戦略コーチ)の指導があります。そこに今季、プレーイングマネジャーに就任した高津臣吾監督の指導がうまく上乗せされているのです。

 高津監督は周知の通り、日、米、韓、台と4カ国のプロ野球リーグを経験し、数々の過酷な環境を潜り抜けてきました。その中で培われたものなのでしょう、彼は人一倍強い勝利への執念、そして「どうせやるなら、緊張をプラスにして楽しもう」という考えを持っています。それをそのまま指導にもいかしているのです。

 私が驚いたのは、高津監督のマネジメント能力の高さです。新潟の選手を見ていると、誰ひとりとしてこぼれている選手がいません。支配下登録されている27人の選手全員に役割が与えられ、それぞれの能力が最大限にいかされているのです。ピッチャーの起用法にもそのことがよく表れています。

 例えば、まだ力不足が否めないルーキーのピッチャーでも、単に敗戦処理だけをさせたりはしません。将来的に先発としての見込みがあれば、どんなに打たれても、先発で起用しています。とはいえ、勝負どころの試合で起用するわけにはいきませんから、いわゆる“谷間”に登板させるのです。そして、どんなに点を取られても、我慢をして長いイニングを任せます。おそらく球団と監督との間で3年計画など、共通認識のもとで若手の育成方法が行なわれているのでしょう。若い選手の体つきがみるみる変わっていくのも、選手の体調管理を厳しく行なっている証でしょう。

 打者も同様に、たとえ控えの選手でも、それぞれの役割が与えられています。だからこそ、選手全員のモチベーションが高く保たれているのです。そんな新潟の戦い方は、まさに“チーム一丸”。前期の優勝で自信をつけた新潟は、後期ではさらにパワーアップした感じがします。

 選手発想のパフォーマンス

 そして、今季の新潟の魅力は、何といっても、選手が野球を楽しんでいるということ。それがファンにも伝わっているのでしょう。例年と比較しても、リーグ全体としての観客動員数は決して好調とは言えませんが、新潟戦に関しては例年以上の盛り上がりを見せています。

 新潟のファンが楽しみにしていることのひとつには、試合前後のパフォーマンスがあります。今季の新潟はホームゲームになると、試合前に必ず行なう儀式があります。それは、“雄叫び”です。試合開始時刻が近づくと、全選手がベンチ前に集合し、円陣を組みます。そして「ウォー! ウォー!」と1分ほどの雄叫びが始まるのです。これはラグビーで有名なニュージーランド代表、通称「オールブラックス」が試合前に行う「ハカ」と呼ばれる戦いの舞からヒントを得たものなのだそうです。

 では、なぜ、こうした雄叫びを始めたのでしょうか。そこには、たとえ前の試合に負けて気持ちが沈んでいても、なかなか成績が伸びず悩んでいても、試合前には全員で気持ちにスイッチを入れて試合に臨みたい、という思いがあるのです。

 また、勝利を挙げた試合後に行なわれるのが、「勝利の歌」の合唱です。ファンも一緒になって歌う様は、まさに地域に根差した球団の理想の姿に他なりません。嬉しいのは、これらが、選手たちからの発案だということです。「自分たちの手でリーグを盛り上げたい」「ファンと一体となって戦いたい」という思いから、キャプテンの清野友二(山梨学院大学付属高−松本大)を中心に、選手たちによってつくりだされたパフォーマンスなのです。こうした野球やファンに対する姿勢も、今季の新潟は頭一つ抜けています。短期決戦となるプレーオフでは、どんな戦い方を見せてくれるのか、そしてこの新潟の勢いを制止する球団が出てくるのか……。今後の戦いぶりに注目したいと思います。

 20歳投手と28歳野手への期待

 さて、今年もプロ野球のドラフト会議が約1カ月半後の10月25日に開催されます。今年、BCリーグにおいて指名候補の筆頭に挙げられるのが、福井ミラクルエレファンツの森本将太(福井高)、20歳です。彼は身長174センチ、体重65キロと小柄なのですが、150キロ台のストレートとBCリーグでは見たこともないほどキュッと曲がるスライダーを投げます。この2種類のコンビネーションはピカイチ。いい時の森本のピッチングは、BCリーグのバッターではお手上げ状態です。負けん気も強く、精神面でもプロ向きです。スカウトからの評価も高く、育成ではなく、リーグ2人目となる本ドラフトでの指名の可能性も大きいと思っています。

 一方、バッターでは新潟の主軸を張る稲葉大樹(安田学園高−城西大−横浜ベイブルース)です。彼はリーグ初年度の途中から入団し、今季で6年目のシーズンとなります。28歳という年齢を考えても、最後の挑戦という思いが強いことでしょう。その稲葉は今季3割4分7厘(11日現在)という異次元の打率を残しています。フォームを改善したことで、打撃開眼となったのです。

 具体的に言うと、これまでは追い込まれると、ストライクからボールになる球を前でひっかけて凡打になるケースがしばしば見受けられました。しかし、今は手元にひきつけて打つために、ぎりぎりまでボールを見ることができ、打つべき球なのか、それとも我慢をして見送るべきなのかを見極めることができるようになったのです。また、手元にひきつけることによって、体が開かないため、速いボールに対しての打球も切れずに、ヒットにできるようになりました。

 BCリーグの首位打者ですから、ぜひNPBでも通用するところを証明してほしいと思いますし、彼ならそれだけ能力を持っています。これまで毎年のようにドラフト候補にあがっていただけに、今年こそはドラフト当日、スポットライトを浴びた稲葉の姿が見られることを楽しみにしたいと思います。


村山哲二(むらやま・てつじ)プロフィール>:BCリーグ代表
新潟県出身。柏崎高校では野球部に所属。同校卒業後、駒澤大学北海道教養部に進学し、準硬式野球部主将としてチームを全国大会に導いた。2006年3月まで新潟の広告代理店に勤め、アルビレックス新潟(Jリーグ)の発足時から運営プロモーションに携わる。同年7月に株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティングを設立し、代表取締役に就任した。著書に『もしあなたがプロ野球を創れと言われたら――「昇進」より「夢」を選んだサラリーマン』(ベースボールマガジン社)がある。
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