今頃、オーストラリアのサッカー界は大変な騒ぎになっているはずである。日本が辛くもイラクを退けた数時間後、彼らはアウェーとは言えヨルダンにまさかの黒星をつけられてしまった。3試合を終えて勝ち点が2。首位を行く日本との勝ち点差はなんと8。グループ1位での予選突破が絶望的になったどころか、ブラジルへのチケット自体が危ぶまれる状況となってしまった。
 もう一つのグループでは韓国がリードを守り切れずウズベキスタンに追いつかれ、対抗と見られたイランは、完全なアウトサイダーとしか見られていなかったレバノンに大金星を献上してしまった。こちらは、1位の韓国から4位のレバノンまで勝ち点3の間にひしめく大混戦である。

 五輪予選でも感じたことだが、アジアのレベルはいよいよ高まってきている。チームとしての力はもとより、個人としても世界のスターとなりうる素材があちこちの国から生まれてきている。アジアに於けるW杯常連国の一角からは、すでにサウジアラビアが脱落しているが、“地殻変動”はますます強まっていくことだろう。

 そうした状況の中、4試合を戦って勝ち点10を獲得した日本の状況は、ほぼ申し分ないと言っていい。ただ、右肩上がりで成長を続けてきたチームは、ここにきて完全な足踏み状態となりつつある。

 11日のイラク戦を見て痛感したのは、チームの中に目標のズレが生じ始めているのではないか、ということだった。本気でW杯での優勝を狙い、そのためにはアジア予選で圧倒的な強さを見せつける必要がある、と考えている選手と、そこまでの志、自信は持ちえていない選手――。このままの状況が続けば、意見の衝突が起きるのは必定と見る。

 チームの目標が一つになるためであれば、衝突が起きるのは決して悪いことではない。ただ、日本サッカー協会はこうした状況を予期していたのか、最高のタイミングで最高の相手とのテストマッチを組んである。10月に予定されているフランス、ブラジルとの連戦である。

 日本代表の右肩上がりに陰りが出てきたのは、アジアの日常に追われることでその先の目標に対する思いがいささか希薄になったためでは、と私は思っている。アジアのレベルが上がっている以上、これは仕方がないことでもあるのだが、それだけに、掛け値なしに世界のトップクラスにある両国との対戦は、日本代表に新しい、そして明確な目標と自己認識を与えてくれるはずだ。簡単な相手ではもちろんないが、ここで両国を連破するようなことがあれば、チームの方向性が一気にまとまるのはいうまでもない。

<この原稿は12年9月13日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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