【HC交代、激動のシーズン開始 〜ロスアンジェルス・レイカーズ〜】

 オフにドワイト・ハワード、スティーブ・ナッシュを獲得して今季最大の注目チームとなったレイカーズを、開幕直後に激震が襲った。最初の4戦で1勝4敗と出遅れたところで、チームはマイク・ブラウンHCを解任。攻守ともに歯車が噛み合っていなかったレイカーズは、後任にマイク・ダントーニHCを据えて再スタートを切ることになった。
(写真:通算6度目の優勝を目指すコービー・ブライアントのキャリアに今回のコーチ交代はどんな影響を及ぼすのか)
 就任記者会見で「“ショウタイム”と呼ばれるようなバスケットボールをみせたい」と宣言したダントーニは、“ラン&ガン”と呼ばれる攻撃的な戦術を標榜する指揮官。2008年までHCを務めたフェニックス・サンズ時代にも司令塔役を務めたナッシュと“再会”し、今後は派手な高得点ゲームが増えることになるだろう。

 ただ、コービー・ブライアント(34歳)、ナッシュ(38歳)、パウ・ガソル(32歳)、メッタ・ワールドピース(旧名ロン・アーテスト/33歳)といった高齢選手が主力のロースターに、体力の負担も大きい“ラン&ガン”は適したスタイルなのか。ディフェンスを多少なりとも犠牲にした戦術で、レイカーズは頂点までたどり着けるのかどうか。

 レイカーズでの5度を含む通算11回の優勝経験を持つフィル・ジャクソンも新HCの候補に挙がっていた経緯から(ダントーニは優勝経験なし)、OBのマジック・ジョンソン氏はジャクソンを雇用しなかった選択を痛烈批判。ファンもジャクソンの復帰を熱望していた感があり、ダントーニは就任当初から厳しい重圧にさらされるはずだ。

 波乱の形で幕を開けた2012−13年――。レイカーズはこれから先にどんな方向に向かっていくのか。混沌の中で、リーグを代表する名門フランチャイズは今季最大の注目チームであり続けることは間違いない。

【2連覇へレブロン爆発か 〜マイアミ・ヒート〜】

 本来なら今季もトップで挙げられるべきはヒートだろうが、昨季、6季振りのファイナル制覇を果たしたがゆえに注目度がやや低下した感がある。
 オフにレイ・アレンを獲得してさらに戦力アップし、今季も優勝候補筆頭。高レベルとは言えないイースタンカンファレンスのトップシード獲得も予定調和で、ヒートが全米の視線を集めるのはプレーオフの時期が近づいた頃かもしれない。

 そんなチームの中で、怪物レブロン・ジェームスは今季も開幕直後から圧倒的な活躍を続けている。10戦を終えた時点で1試合平均24.8得点、6.8アシスト、7.9リバウンドと相変わらずのオールラウンドな貢献。特にFG成功率53.8%、3ポイントが44.8%と、ショットの精度の高さが目を引く。
(写真:誰もが認める現代最強選手レブロンは多くの雑誌の表紙を飾り続けている)

「27歳にして、いまだに進化を続けているのは恐るべきこと。ここまでレイ・アレン(3点シュート通算記録保持者)のようにシュートを放ち、ドワイト・ハワード(過去4度リバウンド王)のようにリバウンドを掴みまくっている」
「ESPN.com」のトム・ヘイバーストロウ記者がそう記している通り、2012−13年のレブロンはプレーの質がさらに高まりそう。9年目の昨季、ついに初めて優勝リングを獲得し、精神的な重荷がなくなっただけに、より快適にレブロンらしいスケールの大きな活躍をみせてくれそうだ。

 前述通りヒートの2連覇が有力視されているのと同時に、レブロンも2年連続4度目のMVPの大本命。チームのレギュラーシーズンは大きな波乱のないまま進んでいったとしても、現役最高プレーヤーの超絶パフォーマンスに一見の価値がある事実にもちろん変わりはない。

【電撃トレードの影響は? 〜オクラホマシティ・サンダー〜】

 昨季、チーム史上初のファイナル進出を果たしたサンダーは、オフにレイカーズが大補強を敢行したあとでも、依然としてウェスタンカンファレンスの優勝候補筆頭に挙げられていた。

 しかし、開幕前にいわゆる“ビッグ3”の1人だったジェームス・ハーデンをヒューストン・ロケッツに放出。昨季、6thマン賞を獲得したハーデンとの契約延長交渉が不調に終わったため、止むなく行なったこのトレードによって、サンダーは多少なりとも戦力ダウンしたと見る関係者は多い。
(写真:地元オクラホマシティでは大人気のサンダーは電撃トレード後も強さを保てるか)

 最初の9戦で6勝とまずまずのスタートを切ったものの、スケジュールに恵まれた感も否めず、サンアントニオ・スパーズ、メンフィス・グリズリーズといった強豪には完敗。この時期の成績にオーバーリアクションは禁物だが、少なくとも現時点で昨季までの勢いが感じられないのは確かに思える。

「まるで兄弟のように仲良しだったジェームスが去ったのは残念だ。だけどこれがNBA。僕たちにできるのは、少しでも早く新しいスタイルを整えて、良いチームを作っていくだけだよ」
 エースのケビン・デュラントはそう語り、ハーデン抜きのチーム作りに意欲をみせる。実際に昨季まで3季連続得点王のデュラント、PGとしては屈指の得点力を誇るラッセル・ウェストブルックらが健在ならば、必要な得点は叩きだせるはず。さらに新加入のケビン・マーティン、伸びしろを残したセルジ・イバーカらが力を発揮すれば、上位進出の可能性は極めて高いだろう。

 しかし、エース級の得点力を誇るプレーメーカーだったハーデン抜きで、ヒート、レイカーズのような強豪との力勝負に勝ち切れるかどうか。「目先の優勝よりも将来を見据えた」と評された電撃トレードの後で、今季のサンダーがどんな結果を出し、地元ファン、関係者がどう反応するかに興味はそそられる。

【名門、完全復活か 〜ニューヨーク・ニックス〜】

 昨季、11季ぶりのプレーオフ勝利を挙げて復活への狼煙を挙げたニックスは、今季開幕から負けなしの6連勝。得点でリーグ2位、得失点差で1位と意外にもバランスの良いプレーを展開し、序盤戦のサプライズチームとなっている。

 カーメロ・アンソニー、タイソン・チャンドラー、JR・スミス、レイモンド・フェルトンらの主力が効果的な仕事を果たし、特にカーメロは10年目にして一皮むけたようなオールラウンドな働きぶり。そして今季から加入したジェイソン・キッド、マーカス・キャンビー、カート・トーマスといったベテランが、ロッカールームのリーダー役を務めているのも大きい。

「今季のニックスにはタレントのある選手が揃っているし、コーチの指導も行き届いている。そしてジェイソン・キッドを擁している。キッドはチームのすべての選手を集中させることができるんだ」
 9日にニックスに敗れた後、ダラス・マーベリックスのリック・カーライルHCはそうコメント。これがプロ19年目で、マーベリックス時代にはファイナル制覇の経験もあるキッドの存在は、自由奔放な選手が多かったニックスに確かに大きな影響を及ぼしているようにも思える。
(写真:個性派揃いのニックスに、キッド(写真はネッツ時代)のようなリーダーこそが最も必要だったのかもしれない)

 シーズンは始まったばかりで、ここまでのニックスもややスケジュールに恵まれた感はある。故障離脱しているアマレ・スタウダマイヤーが復帰後、良いリズムを保てるかどうかも不透明。そして高齢のベテランたちが、シーズンを通じて現在のレベルでプレーできるかどうかも分からない。

 ただ……攻守に役者が揃い、パスもよく廻るようになったニックスの好スタートは完全なまぐれには見えないのも事実だ。今後に波はあるだろうが、イースタンの上位シード獲得は不可能ではなさそう。プレーオフで勝てるかは別問題だが、少なくともシーズン中は、ニックス完全復活を熱望するニューヨークのファンを喜ばせ続けそうな予感も漂っている。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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