二宮: 黒須さんはまだ21歳ですから、次のリオデジャネイロはもちろん、東京が招致に乗り出している2020年の五輪に出ることも年齢的には可能ですよね。
黒須: はい。私も3回くらいは五輪に出られればいいなと思っています。世界では40歳まで現役を続けた選手もいます。その選手は30代中盤まで世界ランキングが1位でした。

二宮: 競技によってピークを迎える年齢は異なりますが、近代五種の場合は複数の種目をこなしますから、それなりの経験値が必要になるのではないでしょうか。となると、30代になっても世界のトップで活躍できると?
黒須: 水泳やランニングは瞬発力や持久力が求められますから若い選手にアドバンテージがありますが、馬術や射撃、フェンシングはテクニックが第一。キャリアのある選手が断然強いです。

 今度はバイアスロンに挑戦!?

二宮: 黒須さん自身は、これからどんな競技人生のプランを描いていますか?
黒須: 父からは20年プランだと言われています。14歳で本格的に競技を始めましたから、34歳までは頑張れと。その流れで行くと今回のロンドン五輪はまだまだひとつの通過点ですね。

二宮: 夏季五輪では柔道の谷亮子さん、ボートの武田大作選手、馬術の杉谷泰造選手の5大会連続出場が最高です。34歳まで現役を続ければ、記録に並ぶところまで行けるかもしれません。冬季の競技でもバイアスロンはコンバインドに似たところがありますから、そちらに挑戦する夢も広がりますね。
黒須: 射撃の部分では経験を生かせるから楽しいと思いますね。ただ、今までスキーをやったことがないんです。挑戦したい気持ちはあったのですが……。とりあえず五輪が一段落したので、この冬はスキーをやってみようかなという興味が出てきています。

二宮: 冬はスピードスケート、夏は自転車競技に取り組んだ橋本聖子さんのように両方で五輪を狙ってみる手もありますね。
黒須: アハハハ。それは過酷ですね。でも4年に1回よりも2年に1回のほうが気持ちはつくりやすいかもしれません。実は最近、トレーニングの一環で自転車を始めました。今回、五輪で優勝した選手からトレーニング方法を訊いたら、体力強化で自転車を取り入れていると。自転車のチームに加えてもらって、ロードバイクで4時間くらいこいでいます。

二宮: 自転車もレースに出るようになったら、6種競技になりますね(笑)。4年後に向けては「全体的にレベルアップしたい」との話でしたが、来季はどのような予定ですか?
黒須: 2月からワールドカップが始まります。なるべくたくさん大会に出て、経験を重ねたいですね。試合を通じて力をつけていきたいと考えています。

 ハードだった韓国での練習

二宮: となると遠征費などもかさみますね。昨年のマルハンワールドチャレンジャーズでは協賛金200万円を獲得しました。資金の使い道は?
黒須: 海外遠征費はもちろん、昨年から韓国でトレーニングするようになったので、その滞在費やトレーニング費に充てさせていただきました。近代五種はマイナー競技ですから、費用は自己負担の部分が多い。協賛金をいただいて、本当に役立ちました。

二宮: 近代五種の場合、年間ではどのくらい費用がかかりますか?
黒須: 五輪前の1年間では、だいたい400万円程度かかりました。それを全部、自分たちで支払わなくてはいけなかったと思うとゾッとします。あの200万円がなかったら競技を続けられなかったかもしれません。

二宮: 韓国でトレーニングを始めた理由は?
黒須: 近場で、かつ競技人口が多くてレベルが高いからです。日本の競技人口は100人くらいですが、韓国は1000人ほど。クラブチームがあって、環境も充実していますし、世界的にもトップクラスの実力を誇っています。

二宮: それは、いいトレーニングができたでしょう。
黒須: 今まで練習相手も少なくて自己流でやってきたのが、強くなるためにはどのくらいトレーニングが必要か身をもって体験できました。1日のメニューも水泳やって、終わったらランニング……といったものではなく、朝から晩までびっしりと練習が詰まっている。1日の練習が終わったら、次の日を迎えたくないと感じるほどハードな内容でした。コーチも普段は優しいのですが、練習中は“鬼”に見えましたよ(笑)。

二宮: 具体的に1日のスケジュールは?
黒須: 朝5時30分から射撃のトレーニングを2時間。それから朝食を摂って、8時からの2時間は馬術。その後は10時から12時までが水泳です。午後は14時からフェンシング、16時からはコンバインド。夕食を挟んで少し休憩して、19時30分からは1時間、ウエイトトレーニングをして、その後も自主トレが入っていました。

 アジアでメダルを狙える位置に

二宮: 聞いただけでも目が回りそうです(苦笑)。それだけトレーニングしたらお腹もすくでしょう?
黒須: おかずもたくさん食べましたし、ごはんも1食1合では足りなかったですね。ただ、食事後もトレーニングがあるので、あまり消化の悪いものは食べられない。栄養士さんがいるわけではないので、その点は自分で考えながら食べていました。

二宮: 種目によって使う筋肉などが違いますから体づくりも大変ですね。
黒須: あまり筋肉質にすると水泳で水に浮かなくなりますし、かと言って脂肪が多すぎると走る時に持たない。私の場合は体脂肪が15〜16%くらいがベストです。いくら動いて食事を減らしても痩せなかったり、その時の体調によって変化するので体重管理は本当に難しいですね。

二宮: まだ成長期でしょうから、どうしても体は大きくなりますよね。
黒須: 私がもともとスポーツを始めたのも、子供の頃、太り気味だったので痩せる目的でした。甘いものも好きですが、誘惑に負けないように今は極力、我慢しています(笑)。

二宮: 競技人口が少ないこともあり、現在、アジアの中でも韓国や中国と比べれば、日本の全体的な実力は劣っています。五輪のメダルを狙うには、まずアジアでトップを目指さないといけませんね。
黒須: 五輪は4年後ですが、近代五種のアジア予選はもう2年半後に迫っています。まずは2年後に韓国で開かれるアジア大会でメダルを獲れる位置につけておかないと、五輪出場すら危ういと思っています。アジアでも日本でも若手がどんどん出てくるでしょうが、負けないように頑張ります!

(次回はジェットスキー・小原聡将選手を特集します。12月19日更新予定です)
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黒須成美(くろす・なるみ)
1991年10月22日、茨城県生まれ。東海東京証券所属。小学1年から水泳を始め、小学6年時に近代五輪の選手だった父に誘われて出場した大会で初出場、初優勝を収める。中学から競技に本格的に取り組み、06年のアジア選手権では、日本人女子史上最高位の5位入賞。その後も着実に成長を遂げ、10年に初めて開催された第1回全日本選手権大会で初代優勝を手にする。翌11年の全日本選手権も圧倒的な強さで連覇。同年に行われたアジア選手権では6位に入り、山中詩乃とともに同競技では日本人女子初の五輪出場を決める。今年のロンドン五輪では34位だったが、4年後のリオデジャネイロ五輪でさらなる上位が期待できる。身長160センチ。昨年の「マルハンワールドチャレンジャーズ」では協賛金200万円を獲得した。

『第2回マルハンワールドチャレンジャーズ』公開オーディションを経て、7名のWorld Challengers決定!
>>オーディション(8月28日、ウェスティンホテル東京)のレポートはこちら


※このコーナーは、2011年10月に開催された、世界レベルの実力を持ちながら資金難のために競技の継続が難しいマイナースポーツのアスリートを支援する企画『マルハンワールドチャレンジャーズ』の最終オーディションに出場した選手のその後の活躍を紹介するものです。

(構成:石田洋之)
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