MVP、正力松太郎賞、首位打者(打率.340)、打点王(104打点)、最高出塁率(.429)、ベストナイン、最優秀バッテリー賞(内海哲也との受賞)……。7つのタイトルを獲得した阿部慎之助の存在を抜きに、今季の巨人の“5冠”(交流戦、レギュラーシーズン、クライマックスシリーズ、日本シリーズ、アジアシリーズ)は語れない。原辰徳監督が「慎之助のチーム」と認めるように、まさに攻守にわたる扇の要だ。日本代表・山本浩二監督からの信頼も厚く、来春のWBCでは侍ジャパンの主将にも任命されている。大黒柱としてチームを支える心境を二宮清純が訊いた。
(写真:巨人でキャッチャーが打撃タイトルを獲得したのは球団初)
二宮: キャッチャーで1球1球リードしながら、攻撃で4番を任されるのは、かなりの重責でしょう。大変なことも多いのでは? 
阿部: そうですね。まぁ、だからこそ、やりがいがあるかなと最近は感じるようになりましたね。やはり人間なので、下位を打っている時は「ま、いっか」と集中を切らしてしまう打席も正直ありました。でも、僕はキャッチャーで、かつ打てる部分を評価していただいている。4番を打つことで今まで以上に1打席1打席を大事にできたのが、今年一番良かったのではないかと感じます。

二宮: やりがいを感じ始めたのが最近ということは、それまではツライと思う比率が大きかったと?
阿部: はい。実際、キャッチャーを始めたのもイヤイヤでしたからね。今でも正直、キャッチャーはそれほど好きじゃない(苦笑)。高校でも1年の時はサードをやっていましたが、新チームになった時にキャッチャーがいなかった。それで「肩がいいから、オマエやれ」と言われて本格的に始めたのがきっかけです。中学時代も少しキャッチャーの経験はありましたが、ボールが当たって痛いし、プロテクターは重くて暑い。「もう絶対にキャッチャーはしたくない」と思っていました。

二宮: では、もし生まれ変わったら別のポジションがやりたい?
阿部: 先発ピッチャーになりたいですね。仕事は1週間に1回ですから(笑)。キャッチャーはやはりしんどいですよ。最近はありがたいことにキャッチャーを希望している子どもたちも増えてきているようですが、僕はあまりオススメしません(苦笑)。

二宮: 1球1球、ピッチャーのボールを受けて返すだけでなく、状況を把握して配球を考え、内外野に的確な指示も送らなくてはいけない。確かに、体も頭も疲れる過酷なポジションですよね。
阿部: 一番しんどくて体力も使うし、一番痛い思いをする。それに一番怒られますから。

二宮: プロに入ってから、よく怒られたのは?
阿部: バッテリーコーチ(現打撃コーチ)の村田さんですね。打たれるたびに怒られましたよ。ただ、後でしっかりフォローもしてくれて、なぜ怒るのか理由をきちんと説明してもらいました。配球の話にしても、村田さん自身の失敗談を聞けたり、ものすごくためになりました。やはり経験を積むというのは、それだけ失敗をすることなんだなと。
(写真:日本シリーズでは第1戦に糸井にシュートを印象付け、6戦通じて決定的な仕事をさせなかった)

二宮: なるほど。失敗は成功の元と言いますが、そこからいかに学ぶかが大切になると?
阿部: そうです。おそらく野村(克也)さんにしろ、3000試合も出る中でたくさん失敗しているはずです。それを次に生かしてきたからこそ今がある。だから僕は経験値は失敗の数とともに増えていくものだと考えているんです。

二宮: となると、これから、もっと経験を積めばキャッチャーが面白くなるかもしれませんね。
阿部: 試合に勝てば、その日のすべての失敗が報われる。だから、僕はリーグ優勝や日本一もうれしいんですけど、1試合1試合、勝利の後にハイタッチできる瞬間が、ものすごくうれしい。
 ただ個人的には、良くも悪くもキャッチャーの責任という日本の風潮は少し考え直してほしいと感じますね。いつもキャッチャー、キャッチャーと言われるので……。もちろんキャッチャーは大事なポジションですが、メジャーリーグではまずはピッチャーが一番。これは文化の違いで仕方のないことなのかもしれませんが……。

二宮: 最後に、キャッチャー・阿部が、バッター阿部と対戦することになったらどう攻めますか?
阿部: 究極の攻め方はわざとスリーボールにしますね。ボールが続くと、バッター心理としては次はストライクを投げてくるだろうと考えますから力みが入る。そこでミスショットの可能性が出てきます。そういう攻め方もひとつの方法としておもしろいでしょうね。

<現在発売中の講談社『週刊現代』(2012年12月22日・29日号)では阿部捕手の特集記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>