皇后杯の決勝は素晴らしい試合だった。マスコミの扱いは勝った神戸の側に集中していたが、個人的には敗れた千葉の選手、スタッフに最大限の賛辞を贈りたいと思う。試合が手に汗握る展開になったのも、劇的なエンディングとなったのも、千葉の信じられないほどの奮闘があればこそ、だった。
 神戸が勝ってばかりの女子サッカーでは、いずれはファンも飽きてくる。リーグ戦で下位に沈み、力の差は歴然と見られていた千葉があわや大番狂わせ、という試合をやったことで、新シーズンのなでしこリーグは俄然(がぜん)緊迫の度合いを増そう。

 それにしても、ロンドン五輪でも痛感したことだが、日本の女性たちの逆境での強さには目を見晴らされるものがある。同じ社会で育ち、同じ教育を受けていながら、しかし、日本の男子からロンドンでのなでしこのような、あるいは皇后杯での千葉のようなたくましさ、しぶとさが感じられないのはわたしだけだろうか。

 神戸と千葉との間にあった差は、ポーランドで戦ったブラジルと日本との間にあったものと同じぐらいか、もしかしたら大きかったかもしれない。それでも、千葉の選手たちは尻尾を巻かなかった。おびえてもいなかった。最後まで絶対に諦めなかった。

 彼女たちにできて、“彼ら”にできないはずはない。いまはまだなでしこたちの専売特許でしかない不屈の精神を、いずれは男子も受け継いでいかなければなるまい。受け継ぐために何をすべきか、考えていかなければなるまい。

 少なくとも日本に関する限り、女子サッカーは男子の日陰に甘んじる存在ではなくなった。というより、男子が学ぶべきものが女子の世界には数多くある、といった方がいいかもしれない。そして、まだ国際的な地位を築いていないがゆえに、日本の男子は女子の教訓に耳を傾けることができる。これは、ブラジルやドイツといった伝統国では難しいはずで、日本にとってはアドバンテージと考えることもできる。

 残念ながら、依然として女子サッカーに興味を持たない、あるいは見たこともないという男子のサッカー選手は珍しい存在ではない。つい最近までの女子サッカーの内容を考えれば、それはやむをえないことでもあった。だが、なでしこの躍進によって、時代は大きく変わった。女子サッカーはウェンブリーをも埋める、娯楽として成立しうる競技として認められるようになった。これはなでしこだけの力ではないが、しかし、なでしこがいなければ起こりえなかった現象でもある。

 いろいろなことがあった12年だが、わたしにとってNo.1のニュースは、やはりなでしこの活躍である。何度もあちこちで言ってきたことだが、彼女たちがなし遂げたのは、歴史的な快挙なのである。

<この原稿は12年12月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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