FIFAに対するUEFAの強硬姿勢はただの意地

facebook icon twitter icon

 後にレッドカードの何たるかすらご存じなかったことが明らかになる御仁に、平和賞なるものを進呈した時は心底呆れた。その御仁の言いつけによるものか、まったくの無関係かはともかく、一度提示されたカードの効力が取り消された際は「FIFAは死んだ」と憤慨した。次回の会長選挙で続投が支持されるようなことがあれば、全世界のサッカー協会が国民の信頼を失うことになる、とも思った。

 

 なので、全世界で急速に高まりつつあるインファンティノ会長に対する反感は、至極真っ当な反応だとは思う。

 

 ただ、だからといって彼がやったこと、導入したことすべてが悪だった、というわけではない。

 

 たとえば、今回のW杯で導入されたハイドレーションブレーク。欧州、南米からは反発の声も強かったが、個人的にはアリだと思っている。テレビCMを増やしたいがための暴挙? そういう側面がなかったとはいわないが、全世界で確実に増殖しつつある「90分(45分×2)は長い」と感じる層からすれば、観戦のハードルは確実に下がった。温暖化の影響、選手の健康管理の面から考えても、いずれサッカーが90分を4分割した試合形式になるのは確実とみる。その先駆けが、今回のW杯だった。

 

 今大会から本大会出場国を48に増やしたこと、さらには64にまで増やそうとしていることに対しても、反発の声は強い。参加国が16カ国だった時代からW杯を見てきた者の一人としては、確かに増えすぎだと思わないこともない。ただ、「24」に増えた出場国がさらに「32」になったおかげでW杯とお近づきになれた国の人間としては、FIFAの方針を批判するのは気が引ける。

 

 とはいえ、トランプだかカードだかにまつわる騒動によって、インファンティノ会長に対する反感は全世界的なものとなった。彼がやったことはことごとく否定され、やろうとしたことに対しては欧州サッカー連盟がボイコットまでチラつかせながらかみついた。

 

 わたしの見る限り、欧州メディアの論調は「権力者にすり寄り、金権主義に走ったFIFAの暴挙をUEFAが食い止めた」といったところか。確かに、W杯の価値をマネタイズしようとしたFIFAの動きが、UEFAの強硬な姿勢によって押しとどめられたのは事実である。

 

 だが、だからといって今回の騒動を“悪のFIFA対正義のUEFA”などと受け止めるのはいささか違う。拡大主義、金儲け至上主義という点においては、UEFAも負けず劣らずで、FIFAがW杯出場国を増やした一方で、欧州では大会そのものを増やしてしまった。

 

 そもそも、FIFAが金集めに奔走する理由の一つには、経済的に苦しい国のインフラ整備を援助する、というものがある。また、W杯に出場した選手が所属したチームには、相当な過去にまで遡って報奨金が支払われてもいる。FC琉球のオフィスに「あなた方はアルジェリア代表GKライスを育成したことに対する報奨金を請求していないが、どうしたのか」とFIFAから電話がかかってきたのは、12年前のことだった。

 

 結局のところ、UEFAのFIFAに対する強硬な姿勢は、世界のサッカー界における主導権を渡さない、という意地にしかすぎないとわたしは思う。FIFAが推したという理由だけで、日本単独開催にUEFAが猛反発し、韓国と手を結んだのと同じ図式である。

 

<この原稿は26年8月6日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP