早いものでJリーグが開幕して2カ月が過ぎました。目下、J1の首位は大宮アルディージャ。6勝2分けで、昨季から続く連続無敗試合数を18まで伸ばし、スタートダッシュに成功しました。05年にJ1に昇格して以降、毎年、降格争いに巻き込まれていたチームの躍進に驚いている人も多いでしょう。なぜ、大宮は負けないのか。それはチームの戦い方が明確だからです。
 大宮の強さは“ゾーンプレス”にあり

 大宮の特徴は、いわゆる「ゾーンプレス」。指揮を執るズデンコ・ベルデニック監督は、日本にゾーンプレスを持ちこんだ人物と言われています。ベルデニック監督が昨季途中から就任し、大宮は生まれ変わりました。

 ゾーンプレスとは、相手のボール保持者にプレスをかけて追い込み、複数人で囲って奪う戦術です。奪った後はスペースの空いた逆サイドへ展開していきます。今はゾーンプレスという言葉こそ、あまり使われなくなりましたがが、この戦い方はサッカーのひとつのセオリーになっていると言えるでしょう。このゾーンプレスを選手全員が意思統一してできるよう導いたところにベルデニック監督の手腕の高さが伺えます。確立された自分たちのスタイルがあれば、選手たちはブレずに戦えます。つまり、戦い方が安定するのです。

 もちろん、戦術に結果が伴ってきた点も大きいでしょう。大宮は昨季、10試合連続不敗でシーズンを終えました。それだけに「こうすれば勝てる。引き分けまで持っていける」と自信を持った上で、開幕を迎えたように感じます。今季も結果が出ていることで、さらに手ごたえをつかみ、チームの雰囲気が良くなるという好循環が生まれているのではないでしょうか。第7節(4月20日)の浦和レッズとのダービーを制し、第8節(4月26日)には天皇杯覇者である柏レイソルを4−0で撃破したことで、その自信は揺るぎないものになったはずです。

 これからは他クラブもより対策を練ってくるでしょうから、思うように結果が出ない時期が来るかもしれません。ただ、ゾーンプレスというひとつのかたちができた以上、無理な戦い方は避けたほうがいいと思います。うまくいかないからと言って、個人でむやみにプレスをかけてしまうと、チーム内の連動性を欠き、ほころびが生じます。現状は組織立った守りでボールを奪えているわけですから、それを続けていくことが大切です。

 ベテランが牽引する横浜FM

 2位の横浜F・マリノスも開幕6連勝をマークし、大宮同様、いいスタートを切りました。こちらも好調の要因は守備です。前線からの守りの意識が高く、ボールを奪われてもすぐにプレスをかけたり、カバーリングに入っているため、ピンチを未然に防げています。守りから拮抗した試合展開に持ち込んだ上で、セットプレーなどからゴールを奪って勝ち切る。勝負強さを身につけてきた点も上位にいられる理由でしょう。

 チームを支えているのがベテランの存在です。中村俊輔(34歳)、中澤佑二(34歳)、マルキーニョス(37歳)……。横浜FMには試合の流れを読んだうえで対応できる選手がそろっています。特に中村は攻撃時の起点になってチャンスを演出していますし、タメもつくれます。彼が試合の流れをコントロールすることで、若手も「今は攻めるべきか、守るべきか」を適切に判断できていると思います。

 ただ、長いシーズン、ベテランには年齢的な部分からくる疲労でパフォーマンスが低下する時期が必ずあります。そうでなくても、今後、司令塔となる中村には相手がいち早くプレッシャーをかけるようになり、当たりも激しくなってくるでしょう。その時に周りの若手がフリーランニングで敵をひきつけたり、中村から一旦、パスを受けたりしながらサポートすることが重要になってきます。ベテラン頼みではなく、中堅、若手が一体となって、いかに苦しい時期を乗り切るか。9年ぶりの優勝を狙うには総合力が問われることになります。

 近年のJリーグは終盤まで優勝の行方がわからない混戦が続いています。その中で栄冠を手にするためには、シーズン序盤から中盤にかけてチームのコンセプトをいかにまとめられるか。また、出場停止や負傷などで主力選手が抜けた時に、それを補えるバックアッパーの育成も不可欠です。コンフェデレーションズ杯でリーグ戦が中断する6月も含めて総合力を高められたクラブが、夏以降、優勝争いを演じるでしょう。

 “現実”を見据えて戦う鹿島

 古巣の鹿島アントラーズは現在、4勝1敗3分の4位。まずまずのスタートと言っていいでしょう。序盤でつまずいた昨季との違いは、トニーニョ・セレーゾ監督が「理想」ではなく、「現実」をしっかり踏まえたサッカーを実践していることです。

 新しくなった監督は往々にして、自分のスタイルやカラーを押し出し、システムや戦術を変えたりするものです。ただ、通常、3月にスタートするシーズンに向け、チームが始動するのは早くて1月末。キャンプではシーズンを戦い抜く体力もつける目的もありますから、1カ月前後の準備期間で、それまでと全く異なるサッカーを完全に浸透させるのは非常に難しい作業です。選手が新しい戦い方に戸惑い、いいパフォーマンスができないため、監督はまたアプローチを変える。それに伴って選手間のサポートの方法や約束事も変わり、ピッチ内に迷いが生まれる……このような負のスパイラルに陥ったのが昨季の鹿島でした。

 セレーゾ監督は「この選手だったら、こういったプレーが確実にできる。逆に、これは急に言ってもできない」という現実をよく理解しているように映ります。昨季のジョルジーニョ体制ではタテに速いサッカーを理想とし、現実にはうまく機能しませんでした。しかし、今季は従来、鹿島が得意としてきたスタイルに戻しています。強固なディフェンスから、しっかりとボールを支配しながら個の突破やチームとしての崩しを図る――。セレーゾ監督は選手たちができ得るサッカーを志向したのです。

 これは00年から5シーズンに渡って鹿島を指揮したセレーゾ監督だからこそ、可能だったと言えるかもしれません。当時からプレーしていた本山雅志や小笠原満男など、特徴を分かっている選手がチームにいた点も幸いしました。だからこそ、チーム状況を冷静に見つめつつ、適材適所の選手起用ができているのでしょう。

 開幕前は新加入のダヴィがどこまでフィットするか心配でしたが、個性をうまく発揮できていますね。献身的な動き出しと高い瞬発力はチームの武器になっています。印象的だったのは第5節のセレッソ大阪戦です。彼が相手GKに出たボールを追いかけて奪い、拾った遠藤康がゴールを決めました。あのプレーでチーム内のダヴィへの信頼度がグッとアップしたように映ります。ブラジル人のセレーゾ監督やスタッフがうまくコミュニケーションをとって、プレーに集中できる環境を整えていることも大きいでしょうね。今後、ダヴィはさらにパフォーマンスを上げて活躍するとみています。

 今はまだ序盤です。内容は悪くはないですし、順位的にも出遅れているわけではありません。大宮や横浜FMが調子を落とした時に追いつき、突き放せるよう、上位をキープできるかが、この先の鹿島のカギを握ると思います。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
◎バックナンバーはこちらから