今季からアスレチックスでプレーする中島裕之は、メジャーリーグでダルビッシュ有(レンジャーズ)との対戦を、何よりも楽しみにしている。
 年齢は中島の方が4つ上。元北海道日本ハムのエースと元埼玉西武の主砲は7年間に渡って18・44メートルをはさんで火花を散らし合ってきた。

 ダルビッシュが海を渡る前のシーズン(2011年)の対戦成績は8打数3安打。打率3割7分5厘。中島に軍配が上がった。
「結果は打ったり、打てんかったりやったけど、アイツとの対戦はホンマに楽しかった」
 今年のはじめ、ダルビッシュについて聞くと中島は表情を緩めて、振り返った。

「ダルとは仲良かったんですよ。試合の後とか、よく話しましたもん」
 二人のやり取りを再現すると、こんな具合だ。
「あの球、どうでした?」
「なんや、変わった球やなァ」
「あっわかりました!?」
 驚くことに日本球界を代表する強打者をダルビッシュは新球の実験台にしていたのだ。

 10数種類の変化球を持つと言われるダルビッシュだが、どのボールが一番いいのか?
 即座に中島は答えた。
「僕はフォークボールやと思います。落ち方がスゴイ。本人に“もっとフォーク投げたらええよ”と言ったんですけど、アイツ、あまり投げてこないんです。
 西武もダルのフォークはノーマークでした。ミーティングでスコアラーから“ダルのフォークは気を付けろ!”と言われたことは1回もないですね。分かってなかったのかもしれませんね(笑)」

 ダルビッシュと他のエース級を比較した時、最も異なるのが、修正能力の高さだ。
「天才的なものがありますよ」
 そう言って舌を巻くのは日本ハムの投手コーチとして4年間、ダルビッシュを見続けた吉井理人だ。

「ダルは自分の体がどう動いているかを的確にイメージできるんです。たとえば、僕が“ちょっと今日は左肩の開きが早いな”と指摘すると“そうですね。この部分がズレていますね”」と、すぐに原因を自分で突き止め、修正する。

 普通の投手は実際のフォームと描いているイメージが一致しない。映像を見て、やっと分かる程度。ところがダルは自分の体を操るだけで一致させることができる。だから他の投手のモノマネも得意なんです」

 ヒデオ・ノモが渡米してから日本人投手が夢見るサイ・ヤング賞。これを狙えるとしたらダルビッシュしかいない。

<この原稿は2013年4月12日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

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