先週末は、地球の裏側で「スーペルクラシコ」が行われていた。スーパーなクラシック・ゲーム。超伝統の一戦。英国の新聞が「死ぬまでに見ておいた方がいいスポーツイベントの一つ」と評したボカ・ジュニアーズ対リバープレートの一戦である。アルゼンチン在住の知人によると、試合中、こんな歌がゴール裏で流れたそうだ。
「リーベルよ、2部でプレーするってのはどんな気分なのか教えてくれ」

 2年前のシーズン、彼らの宿敵リーベルはクラブ史上初めて2部リーグに降格した。もちろん、すぐに1部に戻ってきたものの、ボケンセたちからすれば永遠に嘲笑し続けることのできる大失態である。ボカが勝つのと同じぐらいリーベルの破滅を願うボケンセたちの大合唱は、試合中、数分間に渡って続けられたという。

 ありがたいことに、いまはネット上でその様子を映像として見ることができる。なるほど、凄い。圧倒的な情熱と危険なほどの敵意。日本もこんなふうになったらいいな、でも絶対にならないだろうな……と若いころならば間違いなく思ったはずの光景が、ボンボネーラにはあった。

 同じ週末、日本の大宮では、ボンボネーラでは絶対にありえない光景が広がっていた。

 激突するGKとFW。倒れる2人。一人は味方、しかし一人は敵である。それでも、大宮のファンは敵を気遣い、試合後、敗れた広島の選手は大宮のサポーターに向かって感謝の意を伝えた。

 しびれた。

 Jリーグが発足した頃、日本のスタジアムにオリジナリティーは皆無だった。70年代の欧州で流行したチアホーンをいたずらに吹き鳴らすだけで、試合の流れ、リズムにはまるでお構いなし。まもなくホーンは禁止されたが、やみくもに音を垂れ流し続ける悪癖は、歌という形に変わって現在にまで残ってしまっている。

 なぜ日本のサポーターたちは歌うのか。欧州や南米のサポーターたちが歌っているからだった。だが、どれほど情熱的に歌いあげたところで、しょせんは借り物のスタイルである。胸を揺さぶられるようなことはついぞなかった。

 だが、ファンがケガをしたアウェーの選手を気遣い、アウェーの選手たちが整列してホームのサポーターたちに頭を下げる光景は、世界のどこへ行っても見られない、ジャパン・オリジナルだった。スーペルクラシコにも負けない、「死ぬまでに見ておいた方がいいスポーツイベントの一つ」になりえる光景だった。

 つくづく、20年という年月の重みを思う。

 カネをかければ強いチームを作ることはできる。だが、どれほどカネをかけても作れないものが、いまの日本サッカー界には少しずつ根付きつつある。そして、逆説的な言い方になるが、カネをかけても作れないものをどれだけ持っているかが、強いチームを生んでいく一番の要因でもある。

<この原稿は13年5月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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