ただ蹴るだけ……実に残念だったGK小久保のプレー

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 サッカーは好きだった。GKもやっていた。ただ、草サッカーを楽しんでいた26歳のわたしは、現代の常識に当てはめると、あの歳になるまでサッカーをやったことがなかった、ということになるのかもしれない。

 

 それまで、わたしにとってボールを蹴るという行為は、2種類しかなかった。止まっているボールを蹴るか、手で持ったボールを蹴るか、である。

 

 ただの草サッカー愛好家だったわたしのような人間はいい。プロとして生活してきたGKにとって、92年7月、FIFAが突然全世界に発布した“バックパス禁止令”の衝撃は、どれほどのものだったことだろう。想像するに「あすから社内の公用語を英語にする」と指令が下ったぐらいのインパクトがあったのではないか。

 

 バックパスを手で扱えなくなったことで、GKに求められる資質は大きく変わった。実際、それで運命が変わってしまった選手もいる。

 

 スペイン代表、バルサの守護神として長く君臨してきたスビサレータは、ロングキックと正確なスローイングに定評のある選手だったが、新ルールが採用されると、少年時代はFWをやっていたという若手にポジションを奪われた。

 

 ハイクロスの処理など、基本的なGKの技術に明らかな弱点を抱えながら、それでもクライフに起用された選手の名前はカルレス・ブスケツ。後に世界王者となるボランチ、セルヒオのお父さんだった。

 

 ただ、クライフのようにドラスチックな選手起用をした監督は少数派だった。ほとんどの指揮官は、既存のGKにいままで以上の、しかしフィールドプレーヤーほどではない足元の技術を要求した。そして、その傾向はいまも色濃く残っている。

 

 なので、仕方のないことでもあるとは思う。監督から要求されない限り、GKはセーフティーにプレーすることだけを考える。浦和の西川のように、素晴らしい足元の技術を持っている選手であっても、監督から要求されなければ持っている能力を封印する。技術を持っていない選手は、持っていないままキャリアを重ねていく。

 

 小久保玲央ブライアンは、どちらの選手なのだろうか。

 

 ベネズエラ戦の彼のプレーについては、その好セーブを評価する声もあった。わたしは、愕然とした。そのあまりにも低いフィード成功率に。しかも、ウルグアイ戦に出場した早川は、明らかに鈴木彩を意識し、いつもよりリスクをとったフィードに挑戦しようとしていたが、小久保はただ蹴るだけだった。

 

 小久保は1メートル93の長身である。古今東西、フィード技術に長けたGKは小柄なタイプが多く、体格に恵まれたGKは、旧来のGKが求められた資質の高さゆえ、フィード能力には目をつぶってもらえてきた部分がある。

 

 だが、鈴木彩の出現によって、もしかすると世界のGKの常識は塗り替えられる。体格に恵まれ、かつフィールドプレーヤーを凌駕するほどの技量を持った選手が最後尾に控える。一度この強み、ありがたみを知ってしまえば、蹴るだけのGKに戻ることは難しい――とわたしは思うのだが、小久保はどう考えているのだろうか。

 

 彼は、スビサレータと違い、生まれた時からバックパスが禁止されたルールの中で育ってきた。身近には鈴木彩というライバルもいる。それでいながらあのベネズエラ戦のプレー。実に、実に残念である。

 

<この原稿は26年10月1日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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