5月15日、Jリーグは開幕20周年を迎えました。その記念イベントとして、ファン・サポーターの投票による「Jクロニクルベスト」が発表され、ベストゴール部門の1位にレオナルド(当時鹿島)のリフティングシュートが選ばれました。私はそのシュートをチームメイトとしてピッチ上で目撃したのですが、まるで観客のように興奮してしまったことを今でも覚えています。レオがボールを奪われた時の守備を考えながらも「おっ、おっ、おおっ! すごい、入っちゃった!」と(笑)。これは今後もJリーグの歴史に残るゴールといえるでしょう。
 レオは1つ1つのプレーの精度がとても正確でした。彼は基本に忠実で、高い技術を試合で確実に発揮できる。そして、自分の間合いを持っていました。ですから、DFがむやみにプレスをかけても、容易には奪えない。当時はちょうどブラジルが優勝した1994年アメリカW杯の翌年でしたから、優勝メンバーの一員だったレオも乗っていたように思います。彼の世界クラスのプレーを随所に見たことで、「日本人はもっと練習しないといけない」と痛感しましたね。

 レオをはじめ、ジーコが連れてきたブラジル人はサッカー後進国である日本の選手たちのお手本になるプレーヤーばかりでした。日本人は観察力、勤勉性、協調性があります。そのことをよく理解していたジーコは日本人が学んでマネすることが得意だと気付いていたんです。だからこそ、ジーコ自身もプレーを見せたり、技術練習に付き合って指導したりしていた。日本サッカーの発展は、彼らなしにはあり得なかったでしょう。

 理想的だったプロ人生唯一のゴール

 力強さで言えば、強く印象に残っているのがパトリック・エムボマ(当時G大阪)のゴールです。97年の第1節ベルマーレ平塚戦で、ちょうど私が解説を務めていました。その試合がデビュー戦だったエムボマが左サイドのPA手前でDF2人に仕掛け、ボールが相手の足に当たって浮いたところをポン、ポーンとリフティングでコントロールして、振り向きざまに左足ボレー。ドロップしたボールがゴール右隅に決まるのを見て思わず「おお!」と声が出ました。

 また自分で言うのも何ですが、私のゴールもなかなか良かったんですよ(笑)。93年セカンドステージ第17節のジェフユナイテッド市原戦でした。私がジェフのCKを頭でクリアしたボールがサントス、アルシンドと渡った。その時、前を見るとゴールまでの道がスカーンと空いたんです。味方も相手のDFもいない。「上がれる!」と思って一気にゴール前までオーバーラップすると、左サイドを攻め上がっていたアルシンドからグラウンダーのアーリークロスがきた。それをPA手前右寄りの位置からダイレクトで打ちました。ゴール左上に決まったのですが、攻撃のかたち、シュートの弾道ともに理想のかたちでしたね。結局、これが私のプロ人生唯一のゴールになりました。

「なぜオマエがあそこまで上がったのか?」と聞かれても「前に道が開けたから」としか言いようがない状況でした。ゴールに導かれたといいますか……おそらくレオやエムボマのシュートも同じような境地で打ったものだと思うんです。一瞬のヒラメキ、思い切りの良さを試合で出せることは、プロの選手として重要な要素。それをたとえばアルベルト・ザッケローニ監督が視察に訪れている試合で見せられれば、日本代表に選出されることにもつながっていくのではないでしょうか。

 本田、長友がもたらす効果

 さて、Jリーグとともに成長してきた日本代表にも大切な時が迫ってきています。30日の親善試合ブルガリア戦を経て、ブラジルW杯出場権をかけて6月4日のオーストラリア戦に臨みます。そんな日本の招集メンバーを見て注目したいと思ったのが、本田圭佑(CSKAモスクワ)と長友佑都(インテル)です。本田が高いキープ力を生かして前線でタメをつくることで、長友は長い距離をオーバーラップできる。つまり、彼らが復帰することで、日本には攻撃パターンが1つ増えることになります。

 たとえ本田がキープして長友に渡し、そこからクロスを上げるという攻撃パターンが相手に知られているとしても、1つのかたちを確立できることは大きなプラスになります。対戦相手も予測パターンを増やす必要がありますからね。日本にとってはその分、裏をかくチャンスが生まれるわけです。本田がタメておいて自分でミドルシュートを打ったり、長友のオーバーラップに相手が引きつけられたところで逆サイドに展開することも有効になってくるでしょう。

 本田と長友がケガで不在だった3月のヨルダン戦は、左サイドの攻撃があまり機能していませんでした。本田、長友が戻ってくれば、香川真司もいる左サイドの攻撃は活性化すると見ています。

 1つ不安なのは、本田の合流がオーストラリア戦前日だということ。いかにコンディションを維持して、久々の代表のサッカーに順応できるか。そこが大きなキーになると思いますね。

 守備陣のポイントはサイドとゴール前

 オーストラリアは194センチのジョシュア・ケネディを筆頭に、高さとフィジカル能力に優れたチームです。対策としては、ボールを与えないことが最も重要になります。日本の高い技術を発揮して、ボールをキープすることが求められます。その一方で、パスをつないでいる時もカバーリングするべき位置を確認するなど、攻守の切り換えを意識しておかないといけません。ボールを奪われた時に素早くアプローチをかけられるように、選手間の距離をコンパクトに保っておく必要があります。

 守備で重要なポイントは2つあります。まずはオーストラリアのサイド攻撃への対応です。オーストラリアはゴール前の高さを生かすため、シンプルにクロスを上げるサイド攻撃を仕掛けてくるでしょう。横からのボールはキッカーとマーカーの同一視が難しくなるため、どうしても反応が遅れがちになります。ですから、ボールを奪われた後は両サイドの選手に速いプレスをかけ、クロスを上げられる前に仕留める、もしくは後ろにパスを戻させたいですね。

 2つ目はゴール前での攻防です。クロスを上げられた場合は、ゴール前にいる相手に体を寄せて飛ばせないこと、もしくはスペースに走り込ませないポジショニングが重要になります。両サイドのケアとゴール前でのポジショニング。日本の守備陣は常にこの2つを意識しておかなければなりません。幸い、DFラインとボランチの選手は初日から練習に参加できているようですから、オーストラリア戦までに少しでも連係の精度を上げておいてほしいですね。

 日本はあと勝ち点1を獲得すれば自力でW杯出場権を得られますが、引き分け狙いでは絶対にダメです。やはり勝ちにいく姿勢で臨まないと、取れるものも取りこぼしてしまいます。90分間、先制点を奪い、追加点を狙うことだけに徹する。その結果が最終的にW杯出場というかたちになるのではないでしょうか。

 今年は“ドーハの悲劇”からも20年になります。あの時、私たちが痛感したのは「試合終了まで何が起こるかわからない」ということです。選手たちには最後の笛が鳴るまで、勝つ意識をしっかり持って戦ってほしいですね。そして、埼玉スタジアムやテレビで応援しているファン・サポーターたちと喜びを分かち合う瞬間を迎えられることを願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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