今では、すっかり国民的スポーツになったマラソン。どんな職場に行っても、市民ランナーがいることが珍しくない時代になった。決して身体に優しいわけでもなく、ゲーム性のもないこのスポーツが日本で広がったきっかけは、やはり「ホノルルマラソン」だろう。
(写真:ホノトラのスタート前、この雰囲気がハワイだ)
 確かにここ数年のランナーの伸びは「東京マラソン」が牽引しているところも大きく、市民マラソンは東京を中心に動いていると言えるかもしれないが、そもそも「誰でもできるマラソン」「素人が挑戦するマラソン」の流れを最初につくったのは「ホノルルマラソン」だ。古くは郷ひろみから、芸能人、有名人がこぞって挑戦している。「初マラソンがホノルルでした」という人は相当数になるだろう。

 そんな「ホノルルマラソン」のような存在をトライアスロンでもつくれないかと考えたのが6年前だ。株式会社アスロニアを立ち上げ、日本でのトライアスロンの普及策を思索していた私は、ホノルルマラソンのように、トライアスロンをやっていなくても行きたくなる大会、トライアスロンを始めるときに「とりあえず」と思ってもらえる大会が必要という結論に至った。マラソンへのハードルを下げ、一般人とマラソンをつなぐ存在だった「ホノルルマラソン」のようなトライアスロン大会をつくろうというわけだ。

 当時、いや今でもトライアスロンは相当ハードな競技であると思われている。「鉄人」という言葉が独り歩きし、競技者はとんでもないことをやっている「変人」のように思われていることが多い。だから、ソフトに見えて、入りやすい入口を作る必要性を感じていた。
(写真:子どもも頑張って走る!)

 しかし、国内の大会は水が汚いとか、風景が良くないなどロケーションに難のあるところが目立つ。また、運営も田舎の運動会のように盛り上がらないものや、やたら競技役員が口うるさく、めんどうな大会だらけ。離島で行われる楽しい大会もあるが、それらは距離が長いものばかりで、初心者が楽しく参加できる雰囲気を持った短い距離の大会は極めて稀だった。

 これでは、トライアスロンに誘っても、お勧めできる大会が少ない。汚い海や、やたらと競技志向の大会でのデビューでは楽しい思い出にもならないのではないか。そんなことをアスロニア起業メンバーで話していた時に、出てきたプランが「ホノルルトライアスロンの運営」だった。

 当時、私が旅行会社の仕事で出場した「ホノルルトライアスロン(通称:ホノトラ)」はあまりに気持ちいい大会で、出場者が皆、幸せそうな顔をして走っているのが印象的だった。ハワイらしく適度にゆるい運営で、柔らかい雰囲気に包まれていた。気候、ロケーション、何をとっても心地いい。おまけに日本からのアクセスもいいので、大会の前後も観光などを楽しめる。
(写真:皆で楽しめるのが魅力)

 私は「ハワイを嫌いな日本人はいない」と思っている人間だ。だからこそ大会出場とともに、旅行という目的も兼ねることができるホノトラの可能性を感じていた。まさに「トライアスロン界のホノルルマラソン」になりうると閃いたのだ。

 もちろん、物事はそんなに簡単ではなく、権利元との交渉、資金集めと多くの方にお世話になった。そもそも「大会」という権利は微妙で、ネーミングとその場所で開催しているという既得権みたいなものでしかない。開催されるフィールドは公園や道路と公共のものだし、やろうと思えば、権利などなくてもできるはず。

 ただ、それでは周囲が大会の“資産価値”を見出すことは難しい。ましてや言語も含めて相手の土俵だ。ここで力になったのは選手時代に養ったハワイの人脈だった。ハワイでビジネスをしたことのある方なら、ハワイの難しさはお分かりいただけるだろう。島民同士には優しく、外からの者には厳しい風土がある。ハワイらしいマイペースな仕事ぶりで、日本人が日本の常識とペースでやろうと思うと、必ず頓挫してしまう。
(写真:友人たちが応援してくれている)

 そこはローカルの知人の存在が本当にありがたかった。トライアスロンで得た人脈を、トライアスロンのために使う。まあ、当たり前の循環と言えばそれまでだが、「今までここでやって来たことは、ホノトラのためにあったのでは」と思えるほどだった。

 そんなこんなで我々の手で運営を開始し、4年が経過した。当初は100人にも満たなかった日本人参加者が、今年5月のホノトラでは700人近くまで伸びてきた。その中でも初心者が200名程度いて、我々が理想とする「初トライしやすい大会No.1」のポジションは確実につくれてきていると思う。きっと、ここでデビューしたトライアスリートたちは、トライアスロンが楽しいと思ってくれているだろう。日本のトライアスロン普及発展のために、こんな大会をつくり続けたいと思っている。

 もちろん課題はいくつもある。ホノルル市内でも、まだまだこの大会は知られておらず、一般の方の認知度は低い。当然、地元企業やコミュニティの応援が少なく盛り上がりに欠けている。このあたりの対策はようやく今年から始めたばかり。来年は地元の日本語ラジオ局や日本人会と連携を取りながら進める予定だ。

 経営基盤もまだできあがっていない。企業の代表としての立場で言うなら「投資の回収」も全く進んでおらず、事業として足元を固めていきたいところ。スポンサー獲得や、参加者増員などやるべきことは山積みされている。

 イベントは手間暇ばかりがかかり、事業性が低いというのが現状だ。でも、スポーツは発表の場があってこそ盛り上がるものであり、楽しさも倍増すると、私は思っている。フィニッシュした充実感を堪能し、終了後の皆の顔を見ていると「自分がやっていることは役に立っている」という実感がビシビシ得られる。そう、トライアスロンに育ててもらい、ハワイの仲間たちに鍛えてもらった僕だからこそ、これをやるべきなのだとあらためて思うのだ。

 トライアスロンに興味はあるけど……というあなた。来年の5月18日、ホノルルで遊びませんか?

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。今年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
>>白戸太朗オフィシャルサイト
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