二宮: 今回は杉山さんがネットを挟んで相手と対戦するテニス、田中さんが100分の1秒のタイムで順位が決まる競泳、荒川さんがジャッジの採点で左右されるフィギュアスケートと、それぞれ競うものが異なります。トップレベルで戦うにあたっての思考や感覚にも違いがあるのではないでしょうか。
杉山: なるほど。確かに三者三様ですね。それは気づかなかった!

田中: 私たちの場合はタイムがすべて。だから極端な話、他人は関係ないんです。自分のコンディションがきちんと整っていて、目標のタイムが出せれば充実感は得られます。もちろん選考会など一発勝負の舞台で、隣を泳いでいる人が速いと焦りますが、それでも実力以上のものは出ない。自分との戦いの要素がより強いと感じます。
荒川: フィギュアスケートもいかに表現したいものを出し切れるか、という世界です。だけど、大会で他人と順位を競い、五輪や世界選手権への出場が決まる以上、状況に合わせざるを得ないことがある。それと自分の理想がかみ合っていかないジレンマを感じることもありますね。

田中: 採点が予想より低いと、「なぜ私は評価されないのか」とかストレスが溜まらない? 「私のほうが絶対いいのに」って。
荒川: 子どもの頃から、この世界にいると評価されることに関しては慣れますね。ジャッジの評価を気にしていると、自分のスタイルを見失ってしまうので……。

杉山: 私は耐えられないだろうな(苦笑)。テニスだと、どんなに見栄えが悪くてもラインの中に打ち込めば必ずポイントになる。クリアだから、勝っても負けてもスッキリするんです。
荒川: そういう競技のほうが精神的には良かったと思うことはたくさんあります。フィギュアスケートは見ている人にもジャッジの基準が分かりにくい部分がある。明らかに点数差がついている場合ならまだしも、ほぼポイントが並んでいる状況で、違いや、その差に対して相対的に説明するのが難しい。ファンの方に理解してもらうのは本当に大変ですよ。

 緊張や欲をいかに克服するか

杉山: そんな世界で荒川さんは五輪の金メダルを獲ったんだから本当にすごいよね。
荒川: トリノ五輪を振り返ると雑念を入れず、余計なことは一切考えていなかったんです。五輪には長野で1回出て、もう出場するという夢はかなっていましたし、競技生活を納得したいいかたちで締めくくりたい。その一心でした。

田中: 確かに、あの時は映像を通しても楽しそうに滑っているように見えたよね。プレッシャーがなくて自然体だった。
杉山: でも、プレッシャーのない状態をつくるのは結構、難しいことだよ。だって五輪という大舞台で、それなりの実力があれば気負うのが普通。頂点に立てるチャンスがあるんだから、知らず知らずのうちに力むんじゃないかな。
荒川: もちろん欲は出ます。自分のパフォーマンスをしっかりして、結果につなげたいと。その欲との戦いはありましたね。

杉山: では、その欲をどうやって克服したの?
荒川: みんな、金メダルは欲しい。だから、私だけが特別欲しいわけじゃない。こう考えたんです。ここまでやることはやってきたんだから、あとは運に任せるだけと思えば、不思議と緊張はしませんでした。

田中: そんな心境で大会に臨むのが理想だし、そうありたいと思うけど、なかなかできないことだよね。たとえメンタル的に落ち着いていても、勝てないことだってあるでしょう。
杉山: やるだけのことはやったと100%思うには、自分の中に確固たる自信がないと難しいよね。

荒川: 1日1日、妥協はしなかったという自負はありました。だから五輪前の日々のほうがつらかったんです。五輪に向けて立てているプランがあって、それを1つ1つクリアしていても、大会に向けて注目度が上がると周囲は他人との比較を始める。私の中では本番に合わせたピーキングを考えているのに、常に結果を出さないといろいろ言われますからね。しかも、あの時は浅田真央ちゃんがシニアデビューしてGPファイナルで優勝したり、大活躍をしていました。真央ちゃんが年齢制限で五輪に出られないことに対する賛否の報道も耳に入ってくる。現状へのもどかしさや、調整のペースを上げたくなるのを、グッと我慢するのに苦労しました。

杉山: それに、いくらプランを立てていても、機械じゃないから測ったようにはできない。
荒川: その点でも葛藤がものすごくありました。計画通り、スムーズにいかないと「これでいいのかな」と不安も出てくる。代表に選ばれなければ元も子もないですから、ピークに持っていかなくても、ある程度は成績を残さなくてはいけない。自分のやっていることを貫き続けるのは正直、苦しかったです。

 度重なる故障の原因

二宮: まさにトップアスリートならではの高い次元のメンダルの話ですね。スポーツの世界は心技体と言われるように、心と同じく体も重要な要素です。30年以上、さまざまな競技を取材していると、いくら才能があっても大事なところでケガをして大成しない選手がいます。よく周囲は「不運」だと慰めますが、私は運、不運の問題だけではないようも感じますが……。
杉山: 体の使い方が良ければ、基本的にはケガはしにくいですからね。私の場合、決してフィジカル的には爆発的なパワーが出るわけではありませんでした。ただ、体の中から発する声を敏感にキャッチするように心がけていましたね。体の中に生じる違和感やズレに気づいたら早めに対応する。

田中: 競泳は比較的、故障が少ない競技なんです。接触もないし、水の中では重力がかからない。確かに自分の声を聞くのはその通りだと思います。ただ、アスリートの中には、自分の能力以上のものが細胞レベルで出てしまう人もいる。能力に体がついてこなくて、ケガをするパターンもあると感じます。一概にケガをする人はフィジカルが悪いとも言い切れない。
荒川: ものすごく身体能力が高くて、素晴らしいパフォーマンスができるんだけど、これは体が長続きしないなと心配になる選手もいますよね。

杉山: でも、最終的に超一流と呼ばれる領域に行くには、ケガをしないでシーズンを戦いぬけることが条件になるんじゃないかな。そういうトレーニングをして体をつくるのも、本当のトップを目指すには大切なこと。体の使い方が良い選手は、1カ所に負担がかからない。力強いんだけど、しなやかで、流れるように動けるんですよね。テニスの世界だとロジャー・フェデラーあたりが当てはまる。

荒川: 要はいかに自分を客観視できるかが大切なのでしょうね。自身の特徴を把握した上で、それを最大限使いこなす。私にはそういったことを指導してくれるトレーナーさんがいなかったので、20歳を過ぎた頃から、いろいろ試しました。時には失敗もありましたが(笑)、最後の最後、五輪で“これだ”というものが見つかりました。
杉山: そうそう。食事は何をどのくらい食べればいいのか、トレーニングはどの程度やればいいのか、休息の時間をどう設けるか……。試行錯誤しながらオリジナルの方法を見つけることが大事。それはフィジカルはもちろん、さっきのメンタルの話にもつながるよね。やはり、いかに自分と向き合って、やるべきことをきっちりやれるか、ですよ。

二宮: 自分自身を実験台にしてベストを追い求めると?
杉山: そういった研究心、探究心はトップ選手は人一倍強いかもしれませんね。

荒川: アイデアはたくさん転がっているんだけど、それらを単に受け入れているだけでは自分なりの方法は見つからないんですよね。合う合わないの答えを自分で導き出せるかどうかも問われます。
杉山: 今は情報化社会で、心身のコンディショニングにしろ、栄養摂取の方法にしろ、さまざまな方法があふれています。でも他人がうまくいったやり方が自分にもあてはまるとは限らない。情報の見極めが一層、重視される時代ではないでしょうか。

二宮: そば焼酎「雲海」のSoba&Sodaも、だいぶ進んで佳境に入ってきました。「那由多(なゆた)の刻(とき)」も用意していますよ。
荒川: ストレートやロックだとたくさんの量は飲めませんが、ソーダで割ると長くお酒を楽しめるからいいですね。

杉山: 焼酎のイメージが変わりますよね。言われないと焼酎だと分からないくらい。香りもフワッとしていて本当においしい。
田中: 飲みやすいから、こうやって皆でワイワイ話しながらいただくにはピッタリですね。

 スポーツの「美」とは?

二宮: これだけのトップアスリートが集まるのはめったにない貴重な機会です。会の締めくくりにスポーツ界をより良くするための提言をぜひ聞かせてください。
田中: メディアでお仕事もさせていただいていますが、スポーツを結果だけでなく、その競技の醍醐味まで多くの人に伝えてほしいなと感じますね。目に見える成績だけで評価されるのは選手の立場としてはとても残念なんです。

杉山: プロセスあっての結果だから、そういったバックグラウンドにも目を向けてほしいよね。
田中: 結果も、もちろん大事なんです。美女アスリートとかイケメンとか、そういった競技以外の要素ばかりにスポットライトが当たって、勝っても負けても特定の選手しか取り上げられないのもおかしい。誰が勝ったかも分からないような報道には選手時代から、ずっと違和感を抱えていました。結果を踏まえた上で、競技の魅力を深く掘り下げるようなスタイルがもっと一般的になれば、スポーツの見方も変わってくるのではないでしょうか。

二宮: 貴重な提言ですね。私はスポーツにおける美しさとは何かを突きつめると、実はかなりフォームが関係しているのではないかと考えています。いわゆる身体美、そして機能美。
杉山: 確かにフォームがきれいな選手は見栄えがいいですよね。その点では私は失格かな(笑)。プレー中の写真を見ても、全く絵にならない……。

田中: いやいや、杉山さんと荒川さんは美しいですよ。私なんて、現役時代にあるスポーツ雑誌の表紙を飾らせてもらったのですが、その時の写真がひどかった(苦笑)。体の筋肉部分が強調されていて、水着がレスリングのシングレットみたいになっている……。女性とは思われていないんだろうなと感じましたね(笑)。
杉山: でも、その時はアスリートとして「カッコいい」という観点だったんじゃないかな。

荒川: フィギュアスケートだと止まって演じている時の表情をカメラで押さえてほしいのですが、スポーツのカメラマンは、どうしても迫力のある回転やジャンプなど動きがある瞬間をとらえたいと思いますし、編集部もそれを選んでしまう傾向がある。新聞や雑誌に顔が回転の遠心力で歪んでいる瞬間がドンと出ると、「こういうのは載せてほしくないな……」と残念な気持ちがします。

二宮: 荒川さんが最近のフィギュアスケート界、スポーツ界で感じることは?
荒川: 今は昔と違って多くのメディアに取り上げていただいています。若いこれからの選手にはメディアで取り上げられることが本望にならないでほしいですね。競技が好きで全力で取り組むのは当然です。でも、それだけでは実社会では通用しない。競技がすべてではなく、生きていく上で競技以外の要素も積極的に学んで磨いておくバランス感覚が大切だと感じます。

杉山: 確かにそうだよね。私が17歳でプロになった時はそんなこと全然考えていなかったな(苦笑)。当時は勢いでバーッと突っ走っているだけで、自分の将来を見つめる作業なんてしたことがなかった。
荒川: 最近のフィギュアスケートは小さい頃から親がやらせるケースが増えてきています。高校や大学までは親のサポートでできるかもしれないけど、その先は自力で道を切り拓いていかなくてはいけません。しっかり一人立ちできないと、選手として一番肝心な時期に壁に当たってしまう。今のフィギュアスケート界は注目度も高いので、競技で成功すれば、第2の人生も安泰といったイメージがある。それが違う方向につながらなければいいなという心配があります。

二宮: いや〜、興味深い話がたくさん聞けました。ぜひ女子会企画は定期的にやりたいですね。
田中: 読者の皆さんと二宮さんには申し訳ないですが(笑)、女子会はここからが本番。2次会では表には出せないようなオフトークをやりますよ。
杉山: 母が携わっている「貞虎」というお店が広尾にあるから、そこに行きましょう。そば焼酎も一緒にね(笑)。

(おわり)
※現在発売中の『InRed』7月号(宝島社)でも、今回の女子会の模様が紹介されています。こちらも合わせてお楽しみください。

<杉山愛(すぎやま・あい)プロフィール>
1975年7月5日、神奈川県出身。4歳でテニスを始め、92年に17歳でプロに転向。97年のジャパンオープンでツアー初優勝。99年の全米オープンでは混合ダブルスで優勝。さらに女子ダブルスでは2000年全米、03年全仏、ウィンブルドンを制した。00年にダブルスの世界ランク1位となり、03年にはシングルスで自己最高の8位に入る。ツアー通算成績はシングルス6勝、ダブルスは日本人最多の38勝。4大大会62連続出場はギネス認定の世界記録となっている。09年限りで現役を引退し、テニス解説、情報番組のコメンテーターなど多方面で活躍中。杉山愛ジュニア育成基金を立ち上げ、若手選手をサポートするプロジェクトも始めている。
>>オフィシャルサイト




<田中雅美(たなか・まさみ)プロフィール>
1979年1月5日、北海道出身。7歳で本格的に水泳を始め、94年日本選手権で100m、200m平泳ぎで2冠を達成。翌95年には100m平泳ぎで日本記録を更新する。96年アトランタ、00年シドニー、04年アテネとオリンピックに3大会連続出場し、アトランタ大会で200m平泳ぎ5位、シドニー大会で100m平泳ぎ6位、200m平泳ぎ7位入賞。さらにシドニー大会では400mメドレーリレーで3位となり、念願のメダルを獲得した。アテネ大会でも200m平泳ぎで4位となり3大会連続入賞を記録。05年に現役を引退し、現在はスポーツコメンテーターとして活躍する一方、水泳の普及活動にも尽力している。
>>オフィシャルブログ




<荒川静香(あらかわ・しずか)プロフィール>
1981年12月29日、神奈川県出身。プリンスホテル所属。幼少時代から仙台で過ごす。5歳の時、遊びに行ったスケートに興味を持ち、ちびっこスケート教室に入る。小学校に入学してから本格的にフィギュアスケートに取り組み、小学3年生で既に3回転ジャンプをマスターし、天才少女と呼ばれた。94〜96年全日本ジュニア選手権3連覇。98年長野五輪出場。全日本選手権2連覇も果たす。03年ユニバーシアード冬季及びアジア大会優勝。04年ドルトムント世界選手権で日本人3人目のワールドチャンピオンに。06年トリノ五輪では自己ベストを更新し、アジア人初の金メダルを獲得。同年5月にプロ宣言をし、本人プロデュースのアイスショー「フレンズオンアイス」、また国内及び海外のアイスショーを中心に活動し、オリンピックキャスター、フィギュアスケート解説、テレビやイベント出演、コラム連載も行う。現在は、スケート連盟理事を務めるなどさまざまな分野にも精力的に挑戦している。
>>オフィシャルサイト

★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

日本初の本格そば焼酎「雲海」。時代とともに歩み続ける「雲海」は、厳選されたそばと九州山地の清冽な水で丁寧に造りあげた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎の定番です。
提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
和風ダイニングバー〜采〜
東京都渋谷区桜丘町2−9 カスヤビルB1
TEL:03-3477-1431
営業時間:
昼 11:30〜15:00
夜(月〜金) 17:00〜23:30
夜(土・祝) 17:00〜22:30  
日曜定休

☆プレゼント☆
 杉山愛さん、田中雅美さん、荒川静香さんの連名による直筆サイン色紙を本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「女子会のサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は7月11日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回の女子会で楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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