プロ野球は24日から後半戦がスタートしました。セ・パともに、ますます激しい優勝争いが繰り広げられることでしょう。さて、今年のオールスターは後半戦への期待値をグンと高めてくれましたね。私見を述べれば、近年では最も見応えのあるオールスターだったのではないかと感じています。60年ぶりにホームランゼロに終わったものの、そのことさえも気にならないほど、3試合ともに盛り上がりました。プロ野球ファンにとっては、まさに“夢の球宴”となったのではないでしょうか。
 今年のオールスターで楽しみにしていたのは、やはり6人という例年にはない出場人数となったルーキーを始めとする、若手ピッチャーです。2戦目の全セでは、菅野智之(巨人)、小川泰之(東京ヤクルト)、藤浪晋太郎(阪神)、石山泰稚(ヤクルト)と4人のルーキーリレーが披露されましたが、どのピッチャーも期待通り、いえそれ以上の素晴らしいピッチング姿を見せてくれました。

 最も注目を浴びた大谷翔平(北海道日本ハム)は、本拠地・札幌ドームで行なわれた第1戦で“二刀流”デビューを果たしましたね。ピッチャーとしては1イニングを2安打無失点に抑えました。オールスターという大舞台で、わずか19歳のピッチャーが自らの実力を惜しげもなく発揮し、果敢にストレート勝負をするというのは、本当にすごいことです。しかも、プロ入り最速タイの157キロというスピードを出し、観客のみならず、両ベンチを沸かせてくれました。これで、さらに160キロへの期待が強まったことでしょう。

 また、バッターとしては全3戦に出場して、7打数2安打1打点という成績でした。私が一番印象に残っているのは、1番として起用された第2戦。全セの先発に抜擢された同じルーキーの菅野から、オールスター初ヒットを放った後の走塁です。積極的に次の塁を狙う姿を見て、“二刀流”としての覚悟を感じました。そして、改めて“二刀流”実現の可能性の大きさを見せつけてくれたな、という気がしています。

 高まる“二刀流”への可能性

“二刀流”については、賛否両論ありますが、僕自身は可能性は決してゼロではないと思っています。大谷なら、という希望も持っていますし、彼の挑戦を応援したい気持ちです。今回のオールスターで、その気持ちがさらに強くなりました。先日、栗山英樹監督に会った時、こんなことを言っていました。
「大谷のポテンシャルの底が見えないんですよ」
 つまり、予想以上の伸びしろがあり、果てしない潜在能力があると言うのです。

 今回のオールスターを見て、改めて大谷のすごさを感じた人は少なくないはずです。ピッチャーとしても、バッターとしても、あれだけの高い能力を持っているのですから、どちらも捨てきれないですよね。“二刀流”を目指すのも納得できます。これまで“二刀流”に異を唱えていた人も、納得せざるを得なくなったのではないでしょうか。とはいえ、「早く1本に絞るべき」という意見もあります。しかし、私は3年はやらせてみてもいいのではないかと思います。3年で本当に“二刀流”としてモノになれば、未だかつてないスーパースターの誕生です。その日が来るのが非常に楽しみです。

 そして大谷と同じく高卒ルーキーながら堂々とオールスターの舞台を踏んだのが藤浪です。第2戦に全セの3番手として登板し、2イニングを2安打無失点に抑えました。彼の冷静なマウンドさばきにも驚かされました。特に、話題を呼んだ中田翔(日本ハム)との対戦では、藤浪のタフさが前面に出ていましたね。普通、いくら高校の先輩に言われたこととはいえ、あの場面でスローボールを2球も続けて投げる勇気はなかなか持てません。さらに、3球目からは一転、伸びのある直球をズバズバ投げるのですから……。最後は中田を空振り三振。単なる茶番に終わらせなかったところに、藤浪というピッチャーのすごさを感じました。

 直球勝負に見た投手陣の思い

 さて、今回のオールスターでは、ほとんどのピッチャーがストレート勝負に挑んでいましたね。しかも昨季までのいわゆる「飛ばないボール」ではなく、「飛ぶボール」にかえられていたにもかかわらず、ホームランは1本もなく、派手な打撃戦はありませんでした。これはピッチャー出身の私としては、なんだかスカッとした気持ちになりました。

 というのも、統一球が登場して以降、ボールにばかり注目がいき、その間の各ピッチャーの努力や進化は無視されていたも同然の状態でした。今回のオールスターは、そうしたことに対するピッチャーの反発心の表れでもあったのではないかと思うのです。「“飛ぶボール”でも、そんな簡単には打たせないよ」と、自分たちの力をいい意味で見せつけたかったのです。第3戦で先発した木佐貫洋さえもストレート勝負に挑みましたが、その姿自体が、ピッチャーの総意だとも感じました。

 もちろん、バッターも真剣に勝負を挑んでいました。テレビの画面では伝わり切っていなかったかもしれませんが、そのスイングの速いこと、速いこと。ブランコ(横浜DeNA)、バレンティン(ヤクルト)、中村紀洋(DeNA)……彼らのスイングは凄まじかったです。結果的にはロースコアの試合が続きましたが、勢いはピッチャーの直球にまったくひけをとっていませんでした。だからこそ、どの対戦も味があったのだと思います。

 近年は好投手・好打者たちが、どんどん海を渡るようになりました。私はそれ自体はとてもいいことだと思っています。しかし、そんな時代だからこそ、日本のプロ野球の良さを示して欲しいと願ってきました。そういう意味では、今年のオールスターは「日本のプロ野球も、こんなに面白いんだ」というところを存分に見せてもらいました。後半戦もきっと、メジャーリーグに負けない好プレーがたくさん見られることでしょう。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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