先週末、日本クラブユース選手権の準決勝、決勝があったので、ちょっとのぞきに行ってきた。エスパルスのFW北川、ガンバのMF井手口、サンフレッチェのMF野口、そして優勝したマリノスのDF福田、尾身、MF早坂、田崎……名前を挙げていったらキリがないぐらい、楽しみな選手がたくさんいた。
 だが、何よりも驚かされたのは、大会のパンフレットだった。出場24チームの自己紹介的な文章が掲載されているのだが、そのほとんどが育成方針として「人格形成」をあげているのである。

 挨拶をしない、口の聞き方を知らない、話をする時に人の目を見ない――一昔前まで、クラブ育ちの選手にはそんなタイプが珍しくなかった。この子たちはサッカーを辞めたらどうなってしまうのだろうと、本気で心配になったこともある。

 それでも、彼らがサッカー選手として大成するのであれば、まだ良かった。問題は、若年層の段階ではその地域でトップクラスの才能だったはずの彼らが、思いの外伸び悩み、最終的には高校や大学を経由した選手に追い抜かれる例が多々あったということである。

 サッカーは、コミュニケーション・スポーツである。どれほど大きな才能であっても、周囲に自分の意図を伝えられず、また周囲の意図を自分が読み取れなければ活躍することはできない。ボール扱いに長け、しかし社会性の欠落した選手たちは、ゆえに伸び悩んだのだとわたしは思っている。

 ただ、クラブ側の方向修正は素早かった。

 パンフレットに書かれたものを見るまでもなく、選手たちがきちんとした社会性を身につけていることは試合からもよくわかった。かつてのように審判を口汚く罵る選手がいない。思い通りに事が運ばなくても、ふてくされたような態度を取る選手がいない。準決勝が終わった直後、すぐに行われた3位の表彰式で、敗れた選手たちが悔しさを露にしながらも、マナーをきちんと守ろうとしている姿勢には強い感銘を受けた。

 日本サッカーは、また新たな階段を登ろうとしているのかもしれない。

 日本の若年層育成が「金太郎飴」状態になっているのではないか。そんな懸念がわたしにはあったし、いまもある。ただ、準決勝に残った4チームの中には、近年の日本では見た記憶のないタイプの選手が何人かいた。なにかが、確実に変わりつつある。

 こうなると、求められるのは起爆剤である。18歳で代表入りを現実のものと考え、かつ、それを達成する選手の出現。ボールを前に運ぶ推進力と、常に上を目指す向上心のある選手の出現と抜擢――。いろいろな夢の広がる、真夏の夜の横浜だった。

<この原稿は13年8月8日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから