“ドーハの悲劇”から、この28日で20年――。今でも、サッカーの試合を見ていて、拮抗した展開でアディショナルタイムに入ると、フッと当時の状況を思い出しますね。特にイラクに同点弾を奪われた瞬間は、今でも鮮明に覚えています。
 オフトジャパンに足りなかった“ずるがしこさ”

 私はベンチ前で他の控えメンバーと肩を組んで戦況を見守っていました。時間が経過する中で、ピッチ上の選手たちに「このまま終われ!」と声をかけていました。もう少しでW杯に行ける状況で、はしゃがないように最後まで冷静さを保とうとしていたんです。

 ところが、同点弾を奪われてしまった。私はチームメイトと肩を組んだまま、呆然と立ちつくしました。そして、試合終了。「え? オレたち、W杯行けないの?」。これが、正直な感想でしたね。一瞬のうちにW杯出場を逃してしまったことが、信じられませんでした。勝負事では「最後まで何が起こるかわからない」とよく言いますが、ドーハではそれを思い知らされました。

“ドーハの悲劇”は、日本にまだ足りない部分があったということでもあります。そのひとつは「ずるがしこさ」。オフトジャパンのコンセプトは、最後まで攻める姿勢を見せるということでした。もう1点を決めて突き放そうとした結果、イラクにボールを奪われ、同点弾につながってしまったのです。

 あの時、ゴールを狙いに行くべきだったのか、今になってみれば疑問に思います。1点リードしていて、残り時間が少ない状況では相手陣内深くでキープしていてもよかったんじゃないかと。リードしている展開での、試合の終わらせ方があの時はまだまだ未熟でした。状況に合わせた試合運びの重要性を、日本サッカー界が考えさせられる転機となったのは間違いないでしょう。

 その成果か、今は高校サッカーでもアディショナルタイムでの試合運びのうまさが見られるようになってきました。これは20年前の教訓が、日本サッカー界全体に浸透しているからだと思います。そして、A代表はW杯常連国になりつつある。ドーハが日本サッカーに足りない部分を見直すきっかけとなり、その後の躍進につながっているとしたら、試合に携わっていたひとりとして、とても誇らしく思います。

 “確認”して“実行”するサイクルを

 ドーハの経験から私は子供たちにいつも「サッカーは最後まで何があるかわからない。だから、諦めずに戦うんだよ」と教えています。オフトジャパンは、監督を含めた全員が100パーセントのパフォーマンスを発揮しました。最後まで全力を出し切れば、たとえ残念な結果に終わったとしても、胸を張れます。

 また、サッカーだけではありません。今の仕事をする上でも、イベントやいろいろな業務の進行が終わりに近づいた時に「落ち度はないか」と、再度確認する。自分はもちろん、従業員たちにも「最後の部分、大丈夫か」と聞きます。詰めの確認を怠らない大切さは、サッカーを通じて教えられました。確認、そして実行。このサイクルの重要性は、人生のすべてにおいて当てはまるものです。まぁ、ドーハのように、運的なものによるイレギュラーが数パーセント、世の中にはありますけどね(笑)。

 そしてドーハを経験した選手たちには、使命が課せられていると私は考えています。私たちはプロサッカー選手という夢を現実にし、ドーハで世間の注目を一身に集めました。ですから、引退後も社会に戻っていく、もしくは指導者として手腕を振るう姿を見せないといけません。そこができないと、「子供をプロサッカー選手にしたい」という夢を、親御さんが見られなくなってしまう。ドーハでの戦いを見ていた子供たちが、現在、親になって子供に夢を見ている。「夢」を終わらせてはならないんです。

 見てみたい森重と今野のコンビ

 現在の日本代表に目を向けると、ザックジャパンは欧州遠征でセルビアとベラルーシに連敗を喫しました。チャンスを決めきれず、後半開始や終了間際にカウンターから失点。2試合とも同じような負け方だったと言えるのではないでしょうか。

 この結果を受けて、私はそろそろ本格的にCB2人の組み合わせと、ワントップの人選を見直すべきだと思います。ワントップには、泥臭く、ドリブルでも仕掛けられる選手が理想です。今でいえば岡崎慎司と柿谷曜一朗をかけ合わせた選手といえるかもしれません。その上で常に裏を狙うことも忘れない。ウルグアイのルイス・スアレスなどは、まさにそうですよね。

 次にCBですが、チャレンジとカバーリングをこなせる選手の組み合わせが理想ですね。現在は吉田麻也と今野泰幸のコンビが不動です。タイプ的には吉田が「前に出る」、今野は「カバーリングする」選手。ただ、吉田は前に出て相手を潰すプレーは得意ですが、裏を突かれると脆い。個人的には彼の代わりとして、森重真人をもっと試してほしいですね。森重は前に強く、スピードがあるため、下がりながらのディフェンスもこなせます。

 今野にももう少し力強さがほしいところですが、彼のように「声を出しながらカバーリングできる」選手はなかなかいません。前後に強い森重と的確な読みからカバーリングできる今野の組み合わせは、試す価値があると思いますね。

 11月の欧州遠征2試合(オランダ、ベルギー)が年内最後の実戦機会です。W杯に向けて有意義なテストマッチになることを願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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