W杯開幕まであと1カ月あまりとなった。来週の頭には、ブラジルへ行く日本代表のメンバーが決まる。いよいよ、W杯モード突入である。
 それにしても、4年前を思うと隔世の感がある。あの時、Jリーグ関係者は本気でW杯後のことを心配していた。冴えない試合を繰り返す代表チームが南アフリカで惨敗を喫し、日本のサッカー人気そのものが危機に瀕するのではないか。そう考えている人は少なくなかった。
 幸い、奇跡的にも日本代表は惨敗を免れたばかりか、02年以来となる決勝トーナメント進出も果たした。サッカー人気は危機に瀕するどころか、むしろ上向きにさえなった。
 わたしは、ブラジルでの日本代表は全敗で帰国を余儀なくされる恐れがある反面、決勝にまで進出する可能性もある、とみている。少なくとも、過去のW杯でこれほど日本代表に期待をしたことはなかった。

 何より喜ばしいのは、Jリーグの関係者からW杯後を懸念する声がほとんど聞こえてこないことである。

 W杯は、むろんサッカー界最大のイベントではあるものの、サッカーにとっての日常はあくまでもリーグ戦である。にもかかわらず、これまでの日本の場合、JリーグはW杯のための踏み台にすぎず、メディアが取り上げるのはどこが勝った、どう勝ったかというより、誰が代表に入るか、に偏りがちだった。海外でプレーする選手が重用されるようになってからは、ますますJの影は薄くなっていた。

 ただ、昨年あたりからザッケローニ監督が国内組からもメンバーを選ぶようになったことで、いささか歪ではあってもJリーグの露出量は大幅にアップした印象がある。結果、かつてないほど多くの選手が代表入りを本気で狙うようになり、リーグは白熱の度合いを増した。鳥栖の豊田などは、代表を現実の目標と捉えてから、ものすごい勢いで凄みを獲得しつつある。

 とはいえ、欧州の方に目を向けると、日本もまだまだだな、と思わされる。月曜日にはリバプールがクリスタルパレス相手に3点差を追いつかれ、痛恨のドローを演じてしまった。泣き崩れるリバプールの選手やファンが、W杯のことを考えていたとは到底思えない。いまはまだリーグ戦の季節。それが欧州の感覚なのだ。

 それでも、Jでプレーする選手たちがW杯に出場する自分を現実のものとして考えられるようになったのは、日本サッカー界の大きな進歩である。次に目指すべきは、W杯が開幕するギリギリの瞬間まで、W杯のことを忘れていられるようなJリーグである。

<この原稿は14年5月8日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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