12月9日、第41回ホノルルマラソンが開催された。参加者総数は3万1000人。そのうち日本人の参加者は1万4000人。つまり、半数近くを日本人が占めたことになる。ホノルルマラソンは、日本人にとっては入門編の象徴でもあり、日本国内のランニング人口増加に大きく貢献している。
(写真:スタート地点のアラモアナ公園。各々のペースでゴールを目指す)
 この10年、日本のランニングシーンは大きく変化した。以前は、競技会然としていて、初心者が軽い気持ちで参加できるような大会が少なかった。競技役員が取り仕切り、会場もMCではなく、場内放送という感じで音楽さえ流れていなかった。そこには趣味嗜好の参加者を許さない雰囲気があった。一方、ホノルルマラソンは緩い雰囲気で制限時間もなく、まさにマラソン祭り。日本人にとっては、気軽に、旅行気分でも参加できる唯一の存在であったのだ。

 ところが、国内大会も様変わりし、ルールや形式に柔軟さがある大会が増えてきた。まず東京マラソンに代表されるように、制限時間が緩めで、明るい雰囲気をもつ都市マラソンだ。大勢の参加者を集め、街中を走り、演出にもお金をかける。楽しく、派手なマラソンを見て走りたくなる人も多く、これが愛好者人口増加に、非常に貢献したことは言うまでもない。

 また食べ物をテーマにした大会も増えた。「スイーツマラソン」は、途中の給水所に様々なスイーツが並び、走る人を楽しませてくれる。ただし、フィニッシュ後にはあまり食べられないのが個人的には残念。レース中よりレース後に食べたいという私見はおいておいても、女性からの人気はなかなかのもので活況を見せている。一方、甘味だけでなく食べ物を追求したのが「グルメラン」。こちらはゼッケンに着いた試食券で、出店しているグルメ屋台で自由に食べることができるというもの。レース前でも後でも、自由なタイミングで食べられるのが嬉しい。多くのB級グルメが登場しているのも人気の秘訣だ。ただ、食べる時間が集中するので、人気フードの前にはどうしても長蛇の列ができるという難点もあるが、食欲とランニングを上手くマッチさせたイベントだ。この2つのイベントは、ともに女性参加者の比率が高く、通常のランイベントでは9:1とも言われた男女比が、5:5程度になっているという。そういう意味では、ランニング人口拡大に大きく寄与している類のイベントと言えるだろう。

 グループでリレーする形のランイベントも増えた、いわゆる「駅伝」だが、従来のようなきっちりと決められたものではなく、距離や形にこだわらず、グループで自由に楽しむスタイルだ。これなら仲間と気軽に参加できる。また、周回コースで行うものも増え、チーム内で自由に交替できるようにすることで、チーム内の実力差をカバーし合えるような大会も増えている。

 ただ走るだけでなく、その途中で何か別のことをするようなタイプの大会も増えている。「ウォリアーダッシュ」というアメリカ生まれのイベントは、途中に泥の池や、ネットなど障害物を越えて進んでいく。いわゆる大人の障害物競走といった感じで、世界的にも人気を博している。またここ数年、急激に伸びてきたのは「カラーラン」だ。コースの途中に、コーンスターチでできたペンキが噴出していて、参加者はそこを通るたびに色がついていく。白いTシャツを着てスタートし、様々な色に染まっていくプロセスを楽しもうというもので、全米で人気を呼んでおり、来年にはいよいよ日本にも上陸する予定だ。

 このように、少し前なら、マジメに走っている人に怒られそうな柔軟なイベントが増加し、新しい層へのアプローチに成功している。これはスポーツとして正しい進化ではないかと思う。現状では、既存の形にこだわり過ぎて、スポーツとして広がっていない種目もある。時代の流れで人々の趣向が変化している中、スポーツは変わらなくていいのか。もちろん、根底にある楽しみ、スピリットは変化してはならないが、それを楽しむ手段や形は変化していいはずだ。
(写真:ダイヤモンドヘッドをバックに走るホノルルの参加者たち)

 また、日本においては人口減少、高齢化は避けられない。その中でスポーツとして愛されていくには、門戸を広げていかないと、愛好者人口が減り、その競技自体が衰退していくことになる。20年先も、そのスポーツを皆に楽しんでもらうには「進化」が必要なのだ。

 そういう意味ではランイベントの進化は、時代が求めたもので、正しい姿なのかもしれない。走る人が増えることは、結果として、よりランニングという競技を理解してもらうことになるのだから。他のスポーツも見習うべきポイントがあるのではないか。

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。今年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
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