3日よりスプリングトレーニングがスタートしました。とはいえ、日程は土佐清水市での6日間に、11日からの黒潮町での4日間のみ。1カ所に長期滞在して練習に打ち込むNPBのキャンプとは環境は異なります。加えて、独立リーグのチームは毎年、大幅に選手が入れ替わるところがNPBとは大きく違います。もちろん、レベル的にもまだまだですから与えられた時間を有効に使わなくては選手の能力もチーム力も上がっていきません。
 1月14日から始まった新人合同自主トレでは、早速、新しく入ってきた選手たちに基本を徹底して練習してもらいました。今季の新人たちはトライアウトを通じ、伸びる見込みがあるとみて獲得したとはいえ、まだ体力、技術ともにアマチュア。最初に練習を見た時は、「現状の控え選手にも劣る」との印象が否めませんでした。

 そこでバットスイングひとつから基本を伝え、量をこなしてもらうと、約半月ながらもいい方向に向かい始めています。全体ミーティングでは既存の選手にも「これまでの経験は否定しないが、一旦リセットしてくれ。ゼロからスタートしよう」と話をしました。今回のキャンプでは全員、守備はキャッチボールから、打撃はスイングからやり直してもらうつもりです。

 まずキャッチボールでは捕球して、そのままボールをつかんで投げている選手は基本が分かっていません。ボールをきれいにまっすぐ放れるのはフォーシームの握り。フォーシーム以外で投げると、ボールは変化して相手が捕りにくいかたちになります。いかに短い時間に持ちかえてフォーシームの握りをつくれるか。この感覚を養うのがキャッチボールなのです。

 さらに言えば、プロアマ問わず、キャッチボールの仕上げには短い距離でクイックスローをしています。しかし、高知の選手たちでさえ、マネをしているだけで本当にクイックスローができているとは言えません。素早くスローイングをするには、投げる手をグローブの近くに置き、すぐボールを持ち替える必要があります。つまり、相手の送球が逸れた時以外は、極力、両手でキャッチすることが原則です。加えて、ボールを獲った瞬間には投げられる体勢になるよう、足を投げる方向へステップしなくてはなりません。

 バッティングでも気持ち良く打つのは後回しにし、土佐清水での6日間はティーを使ってスイングの基礎づくりに重点を置きます。シートバッティングをするのは黒潮町に場所を移してからになる予定です。反復練習は全くおもしろくないでしょうが、そもそも楽しく練習しようという考えが間違いです。1日のメニューの最後には体力づくりで1時間ほどランニングも組み入れました。しんどくて苦しい。文字どおり、そんなキャンプになるでしょう。

 実戦は18日に韓国の高陽ワンダーズ、25日に阪神2軍との交流試合が組まれています。ただ、ここに合わせてチームづくりをするつもりは毛頭ありません。あくまでも照準は4月の開幕。相手チームの監督に断って、こちらがやりたいことを試合の中で実施する考えです。たとえばランナーが出たら、常にエンドランをかけるかもしれませんし、送りバントのサインを出すかもしれません。選手たちがどれだけ基本のプレーをできるか見極めた上で、日々の練習に生かす場にしていきたいと思っています。

 選手と話をしていると、「優勝したい」「勝ちたい」という目標がすぐに出てきます。しかし、言うだけなら机上の空論です。実際に優勝や勝利を目指すには何をすべきか、自分は何ができるのか。これを突き詰めなくてはいけません。漠然とした目標ではなく、具体的に取り組むテーマを選手たちには提示していく必要があるでしょう。

 僕も現役時代はレギュラーを獲り、他の選手に抜かれないためには、どうしたらいいか、いろいろ考えました。体力面での下半身強化はもちろん、バットスイングやスローイング、走塁でのスタートの向上といった課題を設け、キャンプには臨んだものです。正直、僕の現役時代、こういったことは誰も教えてくれませんでした。自分で気づき、実践するしかなかったのです。

 しかし、時代は変わっています。近年の選手は教わることが当たり前で、良くも悪くもマニュアル社会になってきました。「目で盗め」「見て感じろ」という指導法では通用しません。そのため、今回は選手たちに基本を記したマニュアルを用意し、ミーティングをしています。NPBのコーチ時代につくったオリジナルで、走塁に関してはA4用紙3〜4枚程度でやるべきこと、やってはいけないことを箇条書きにまとめました。

 たとえば「一塁ランナーはスチールなどのサインが出ていない場合、ファーストライナー以外でアウトになってはいけない」。もちろん、これはあくまでも原則で、状況によって例外はあります。得点圏に走者がいて同点や負けている展開では、ファーストライナーであっても一塁ランナーが飛び出すのは厳禁です。そういった場面に応じた対応を説明していくと、ひとつの項目でもかなりの時間を要します。

 他には「一、二塁で外野にヒットが飛んだ時、三塁コーチが腕をまわしていても、一塁ランナーは二塁ランナーが三塁を回りきるまで、三塁へ進塁するかどうかは自分で打球を見て判断すること」という注意事項も入れています。野球に少しでも詳しい方なら、「なんだ、当たり前じゃないか」と感じるかもしれません。でも、一塁ランナーが指示を勘違いして三塁でタッチアウトになるケースはNPBでもままあります。

 昨年も総合コーチの立場で折に触れて、こういった話はしてきたのですが、何度も同じパターンで失敗している選手がいました。当然のことを自然にできなければ、上のレベルには進めません。監督としてチームを預かる以上、選手たちにはとにかく原理原則を叩きこみます。

 なんだかこう書くと、“地獄のキャンプ”と戦々恐々とされそうですが、何事も基礎がなければ応用もできません。逆に言えば、基本ができ、理論に従って頑張れば、どんな選手もある程度までは上達していきます。「急がば回れ」の精神で、その意識付けを何度も何度も行うことが、2月のテーマになるでしょう。

 開幕してから、皆さんに「高知の野球は変わった」と実感していただけるように頑張ります。ぜひ、お近くの方は練習の様子を見に来ていただけるとうれしいです。


弘田澄男(ひろた・すみお)プロフィール>:高知ファイティングドッグス監督
 1949年5月13日、高知県出身。高知高、四国銀行を経て72年にドラフト3位でロッテに入団。163センチと小柄ながら俊足巧打の外野手として活躍し、73年にはサイクル安打をマーク。74年には日本シリーズMVPを獲得。75年にはリーグトップの148安打を放つ。84年に阪神に移籍すると、翌年のリーグ優勝、日本一に貢献した。88年限りで引退後は阪神、横浜、巨人で外野守備走塁コーチなどを歴任。06年にはWBC日本代表の外野守備走塁コーチを務め、初優勝に尽力した。12年に高知の球団アドバイザー兼総合コーチとなり、14年より監督に就任する。現役時代の通算成績は1592試合、1506安打、打率.276、76本塁打、487打点、294盗塁。ベストナイン2回、ダイヤモンドグラブ賞5回。
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