二宮: 藤田さんといえば、昨年の日本シリーズ第5戦、死球を左ふくらはぎに受けた直後の激走が話題になりました。あの死球はかなり痛かったでしょう?
藤田: むちゃくちゃ痛かったですよ。左ふくらはぎに死球が当たったのは4回目でしたが、そのうち2度は長期離脱を余儀なくされました。当たった瞬間に「これはヤバイ」と直感しましたね。お尻のほうまで筋肉がつった感じになって、もう足を地面につけられないんです。
 嶋が泣きながら来たベンチ裏

二宮: いつもは温厚な藤田さんが、珍しくピッチャーの西村健太朗投手に対して怒りの表情を見せていました。
藤田: チャンスで打つ気は満々でしたからね。延長10回で2−2の同点。頑張って投げてくれた則本(昴大)が、先頭打者で四球で歩き、送りバントで二塁に進んでいました。ランナーはピッチャーだから、少々のヒットでは還ってこられない。だから、しっかり打ってやろうと、かなり気合が入っていました。

二宮: 藤田さんの思いが通じたのか、続く銀次選手が勝ち越しのタイムリー。藤田さんも痛みを押して三塁まで走りました。
藤田: フルカウントでピッチャーの投球と同時にスタートを切っていたので、なんとか三塁まで行けましたが、正直、「これはダメや」と思いました。(三塁コーチの)鈴木康友さんに「ちょっとヤバいです」と言って顔を上げたら、星野(仙一)監督がわざわざベンチから出てきてくれたんです。「もういいぞ」と声をかけていただいて、その瞬間、涙が出そうになりました。

二宮: いつもは厳しい星野監督がみせた気遣いに感極まったと?
藤田: はい。感激と同時に悔しさもこみあげてきました。監督に日本一経験がないことは選手全員が知っていたので、シリーズ前から僕たちは「監督を日本一にしよう」と約束していました。でも、こんなかたちで途中離脱しなくてはいけない。それが本当に嫌でしたね。

二宮: ただ、藤田さんの気迫が他の選手たちにも伝わり、楽天は延長戦を制して王手をかけました。
藤田: ベンチ裏のトレーナー室のベットで横になっていたら、ほぼ全員が来てくれて、「この試合、絶対に勝ちます!」と言ってくれました。嶋(基宏)なんか、マスク越しでしたが、ちょっと泣いていましたね。みんなの気持ちが伝わってうれしかったです。僕の野球人生でも忘れられない試合になりました。

 連覇へ守りで盛り立てる

二宮: 第6戦以降の出場は難しいと予想された中、仙台に戻ってもスタメンで試合に出ました。1日の移動日を挟んだくらいでは、足の痛みは消えなかったのでは?
藤田: 確かに足の状態は限界でした。でも、監督、コーチから「オマエが行けるなら行け」と背中を押していただいたので、やれるだけのことはやろうと思いました。それに6戦の先発は田中(将大)。あと1試合頑張ったら、日本一になれると思えば痛みも我慢できましたね。まぁ、6戦は負けてしまったので、「ヤバイ、もう1試合ある」と大変でしたが(笑)。

二宮: それでも第7戦もフル出場。日本一の瞬間もグラウンドで迎えました。
藤田: 正直、6戦、7戦は活躍できませんでしたから、監督が代えずに使っていただいたことに感謝しています。最終回、田中がマウンドに上がり、登場曲の「あとひとつ」が流れた時は鳥肌が立ちましたね。その時は、まだ「これで勝ったら、本当に日本一なのかな」と実感が沸きませんでしたが、実際に優勝が決まった瞬間にはいろいろな思いがこみ上げてきました。横浜でのつらい思い、トレードの悔しさ、楽天でチャンスをいただいたことへの感謝……。すべてが報われた気がして、自分にとっては最高のシーズンの締めくくりになりました。

二宮: 優勝してのオフは初めて。何か変化はありましたか?
藤田: 年末年始に徳島に帰ったら、地元の盛り上がりがすごかったですね。これまでも実家に戻ると「サインをください」という依頼をいくつかいただいていたのですが、この正月はサイン希望の色紙やボールが、段ボール何箱分も用意されていました。「これ、全部書けるのかな?」とビックリしましたよ(笑)。プロの世界は、勝って初めて評価されることを実感した出来事でもありました。

二宮: 今季は移籍3年目ながら選手会長に就任しました。連覇を目指すチームを名実ともに引っ張ることになります。
藤田: 僕には大役ですね(苦笑)。ただ、今年、連覇ができるのは楽天だけ。チャレンジのしがいはあると感じています。

二宮: 昨季、24勝0敗だった田中投手の穴はどのように埋めますか。
藤田: 若いピッチャーが多いので、まず僕たちが守りで盛り立てたいですね。とにかくピッチャーが「打ち取った」と思った打球はすべてアウトにする。その上で「ヒットだ」という打球も捕ってあげる。こうすればピッチャーも乗ってきて、いいピッチングをしてくれるはずです。あとは攻撃で、なんとかつないで中軸にまわしたい。AJ(アンドリュー・ジョーンズ)と、(ケビン・)ユーキリスは打ってくれるでしょうから、その前で出塁したり、得点圏にランナーを進める役割に徹して、チームに貢献したいと考えています。

(来週からは中日・川上憲伸投手(徳島県徳島市出身)のインタビューをお届けします)
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藤田一也(ふじた・かずや)プロフィール
1982年7月3日、徳島県鳴門市生まれ。鳴門第一高(現鳴門渦潮高)を経て、近畿大時代は関西学生野球リーグで首位打者2回、ショートのベストナインに4度輝く。05年にドラフト4巡目指名を受け、横浜に入団。セカンド、サード、ショートを守れる守備力を買われ、09年、10年には連続で100試合以上に出場する。12年6月に内村賢介とのトレードで楽天へ。徐々に先発機会を増やして同年は63試合ながら打率.308をマークすると、13年はセカンドのレギュラーに定着。自己最多の128試合に出場して打率.275、1本塁打、48打点でチームのリーグ優勝、日本一に貢献した。セカンドのベストナイン、ゴールデングラブ賞も受賞。175センチ、75キロ。右投左打。背番号「6」。

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(構成:石田洋之)
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