オフの戦力外から一転、新生ドラゴンズの開幕投手だ。
 中日のベテラン右腕・川上憲伸が6年ぶり7度目の開幕投手を務める。谷繁元信兼任監督が24日に都内で行われたセ・リーグファンミーティングで起用を明言。「キャンプで見た時から今年はやってやるという姿が感じられた」と理由を語った。過去、最多勝のタイトルを2度獲得した実績は十分。吉見一起が右ひじの手術明けで開幕に間に合わない中、かつてのエースに投手陣の柱として期待が高まっている。栄光と挫折を両方味わって迎えるプロ17年目、2月の沖縄・北谷キャンプ中に二宮清純が訊いた開幕にかける思いを紹介する。
 探りを入れた!? 落合GM

二宮: キャンプ中のブルペンでの投球を見て、森繁和ヘッドコーチは開幕投手の可能性を示唆していました。やるからには開幕戦に投げたいという気持ちでしょうか。 
川上: 正直、開幕投手に対するこだわりや思いはないですね。一度、クビになった立場ですから、開幕で投げなきゃとヘンなプレッシャーを感じてやる必要もない。開幕から1軍のローテーションに入り、1年通じて投げられるように準備をすることに集中していますね。

二宮: 落合博満GMからアドバイスを受ける場面もありましたが、どんな指摘を?
川上: 具体的には言えませんが、GMと話をしていると僕に探りを入れているみたいですね。僕が今季、どんな意識で取り組んでいるのか。どこまでプロで野球を続ける執念を持っているのか。言葉のニュアンスから、それを知りたいのではないかと感じます。

二宮: では、「オマエ、開幕投げる気あるのか」といった話もあったと?
川上: まぁ、そうですね(笑)。再契約した時に「体調さえ良ければ開幕狙えるだろう?」と聞かれましたから。その時はクビになって契約してもらったばかりで「はい」と言える状況じゃない。だから「今は、そんな気持ちはないです」と答えました。でも、その後も僕がどんな気持ちなのかは、事あるごとに確認されているような気がします。

二宮: 落合GMは就任1年目にずっと登板のなかった川崎憲次郎さんを開幕投手に指名したほどです。今回、開幕投手を決めるのは谷繁元信兼任監督とはいえ、何かサプライズがあるのでは、と考える人は少なくありません。
川上: 僕も開幕投手は6度経験していますが、開幕戦では勝ち負け以上に求められる役割があると思うんです。単に、その時点で一番いいピッチャーが投げるというよりも、チームにとって意味のあるピッチャーが投げたほうがいいのかもしれません。対戦相手の広島はマエケン(前田健太)が出てくるはずなので、その兼ね合いも考えなくてはいけないでしょう。まぁ、これは僕が考えることではありませんけど……(笑)。

二宮: 昨オフ、戦力外通告を受けた際には、現役を続け、他球団のオファーを待つ意向を示していました。中日を見返したいという思いもあったのでは?
川上: 通告を受けて喜ぶ人はいませんからね。やっぱり、最初は「クソッ!」と思いましたよ。まだ体がダメになっているわけではありませんでしたし、どこかで投げたいという気持ちは強かったです。

二宮: それが落合GMが就任して体制が変わり、一転、再契約を結ぶことになりました。
川上: GMから戦力として必要との話をいただいて、戦力外の悔しさを一瞬にして吹き飛ばしてもらいました。逆に「やってやろう」という思いが出てきましたね。

 捕手とショートの育成も役割

二宮: 川上さんはメジャーリーグから復帰する際も他球団からオファーがあったと聞いています。それでも古巣を選択したのは、愛着が強いということでしょうか。
川上: 決して現役生活は残り長くありませんから、それなら環境のいいところでやりたかったんです。特にアメリカでは肩を故障していたので、日本に戻ってきても投げられる自信がなかった。中日だとトレーナーの方も体の状態をよく知っていますし、僕も正直に話ができる。他のチームだと期待されているのに最初から痛いかゆいとはなかなか言えませんから、勝手知ったる球団を選ばせてもらいました。

二宮: ただ、復帰後の2年は3勝(1敗)と1勝(1敗)。最多勝にも2度輝いた川上さんからすれば不本意だったはずです。
川上: もちろんです。アメリカに行ってから、自分のイメージと実際のピッチングがだいぶ変わってしまいました。周りの方が持っているイメージとも違ってきているのではないでしょうか。

二宮: 新生ドラゴンズの一員として再びユニホームを着ることになり、今季は本当に勝負の1年となります。
川上: 谷繁さんが監督になり、これまでのように、ずっとマスクをかぶることは難しいでしょう。結果を残すことだけでなく、僕が若いキャッチャーと組んで育て監督をサポートするのも、ベテランピッチャーとしてのひとつの役割だと感じています。

二宮: 森ヘッドも、谷繁監督が試合に出ない時は、山本昌投手をはじめとするベテランを先発させるプランを描いていました。ベテランが多いだけに、何とか若手の力を引き出して、チーム力を底上げしたいところです。
川上: 井端(弘和)が抜けたこともチームにとっては大きな転換点になるでしょう。センターラインは守りにおいて重要なポジション。荒木(雅博)、井端の完璧な二遊間でした。彼らが守っている時には牽制ひとつとっても、チームで決めているサイン以外に、僕たちだけのサインがあって普段はやっていないトリックプレーをしていましたから。そのくらい二遊間との呼吸が合っていたんです。

二宮: ショートは若手の高橋周平、新外国人のアンダーソン・エルナンデス、堂上直倫らの争いで、ポジションが固まるにはしばらくかかりそうです。
川上: ピッチャーからすれば、二遊間でゲッツーがとれなかったりするのはつらいものがあります。ただ、それも僕たちベテランがうまく彼らをリラックスさせてフォローすることが大切でしょう。谷繁監督やコーチ任せにするのではなく、僕たちも若い選手とコミュニケーションをとって、キャッチャーとショートを育ててあげなきゃいけないと考えています。

(後編につづく)

川上憲伸(かわかみ・けんしん)プロフィール
1975年6月22日、徳島県徳島市生まれ。徳島商高3年時には4番・投手で夏の甲子園ベスト8。明治大でもエースとして通算28勝をあげ、98年に中日に逆指名入団。1年目に14勝6敗の好成績で新人王に輝く。02年8月の巨人戦ではノーヒットノーランを達成。04年には17勝をあげてリーグ優勝に貢献し、MVP、沢村賞、最多勝などのタイトルを獲得する。06年にも2度目の最多勝(17勝)と最多奪三振王に。09年にFA権を行使してアトランタ・ブレーブスに移籍。12年より中日に復帰し、1勝に終わった13年オフには戦力外通告を受けるも、再契約を結ぶ。昨季までの通算成績は日米通算319試合124勝96敗2セーブ、1521奪三振。179センチ、90キロ。右投右打。背番号「11」。



(構成:石田洋之)
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