いよいよプロ野球開幕まで、あと3日となりました。昨季は田中将大(当時東北楽天)が開幕24連勝を達成し、新人の則本昂大が15勝8敗、防御率3.34という好成績で新人王。そして球団創設9年目にして悲願の初優勝と、楽天の快進撃がクローズアップされました。また、セ・リーグでは小川泰弘(東京ヤクルト)、菅野智之(巨人)、藤浪晋太郎(阪神)の新人王争いも見応えがありましたね。果たして、2014シーズンは、どんな展開となるのでしょうか。キャンプ、オープン戦を見たうえでの、注目どころを挙げたいと思います。
 ルーキー大瀬良、2ケタの可能性

 まずセ・リーグですが、今季躍進を遂げるのではないかと期待しているのが、広島です。昨季は16年ぶりにAクラス(3位)に入り、初めてクライマックスシリーズ(CS)に進出。そのCSでもファーストステージで2位・阪神を破り、ファイナルステージまで進みました。その原動力となったのがキラ・カアイフエです。昨年6月に契約したキラは、7月に一軍昇格し、後半戦は主力のひとりとしてチームに貢献しました。そのキラが今季は開幕からいるということで、打線の軸がある状態でスタートすることができる。これは広島にとって大きいと思います。

 また、投手陣も大竹寛が巨人に移籍しましたが、エース前田健太、3年目の野村祐輔に加えて、オープン戦では乱調だったものの、本来の調子が戻ればブライアン・バリントンが主戦となります。そして、ルーキー大瀬良大地も先発ローテーション入りが確実となっています。

 大瀬良のオープン戦初登板を見ましたが、力のあるいい球を放っていました。何よりも勝負どころで思い切って腕を振ることができる、これが大瀬良の最大の強みと言っていいでしょう。十分に先発として試合をつくることができますから、ケガさえしなければ、最低でも13勝はするのではないかと期待しています。

 だた、最初は先発ローテーションの4、5番目に組み込まれると思いますので、勝ち星もつきやすいとは思います。しかし、活躍次第によっては、いわゆる“表”のローテーションになることも十分にあり得ます。その際、相手の主戦投手と当たり、試合もロースコアでの接戦となる可能性が高くなります。そうなった時に、いかに勝てるか。そのカギとしては、ランナーを置いてからも強みである思い切りの良さを出して勝負にいけるかということになると思います。

 森野に刺激与える小笠原

 昨季の広島のように、今季、久々にAクラス入りの可能性を感じているのが、横浜DeNAです。特に打線は上位が期待できます。昨季、首位打者と打点王の2冠に輝いたブランコを柱に、昨季自己最高となる5本塁打、41打点を挙げた主将の石川雄洋もいます。さらに昨季後半にブレイクした梶谷隆幸がオープン戦で3試合連続本塁打を放つなど、3番打者としての期待が膨らんでいます。

 あとは毎年のように主砲としての役割が期待されている5年目の筒香嘉智が、どれだけ力を出せるかでしょう。オープン戦では打率3割6分と好調でしたが、果たしてシーズンに入ってどうなのか。昨オフにサードからレフトにコンバートしたこともあり、今季こそは1年間を通しての活躍が望まれています。

 問題は投手陣です。ベテランの久保康友と高橋尚成が加入しましたが、彼らは実績はあるものの、昨季に限っていえば、先発として2ケタ勝利を挙げたというわけではありません。それだけに、今季の活躍は未知数と言っていいでしょう。40歳大ベテランの三浦大輔はもちろん、開幕投手に抜擢された2年目の三嶋一輝や、今季から先発に再び戻ると見られる加賀繁、先発ローテーションが確実視されている2年目の井納翔一といった20代の投手陣の活躍が必須です。

 昨季、12年ぶりにBクラス(4位)となった中日は、落合博満GM、谷繁元信プレーイングマネジャーと、チームの体制がガラリと変わり、どういう戦いを見せてくれるのかにも注目です。ポイントは、吉見一起と浅尾拓也が戦列に戻ってきた時に、チームがどういう状態であるかということでしょう。

 チームに活力を与えているのが、新加入の小笠原道大です。キャンプ、オープン戦を通して、いい状態をキープしています。不調に陥っていたここ数年では、なかなかバットが出せず、追い込まれてから難しい球を打たされて凡退というケースが少なくありませんでした。しかし、今年の小笠原は積極的にバットが出ています。球への反応が良く、アジャストできている。本来の小笠原のバッティングが戻りつつありますから、控えとしてベンチに置いておくのはもったいないほどです。

 その小笠原に刺激を受け、危機感を募らせているのが森野将彦でしょう。2011年から3年連続で打率は2割台と低迷が続いていた森野ですが、それでも昨季は浮上のきっかけをつかみ始めたような印象を受けました。私は森野の存在は、中日にとって非常に大きいと思っています。彼の復活が、3年ぶりとなる優勝へのカギとなるはずです。

 阪神に不可欠な開幕ダッシュ

 一方、不安定さを拭えなかったのが阪神です。開幕直前になってもビジョンが見えてこないのです。オープン戦を見ていると、打線にはそれほど期待できないというのが正直なところです。力のある選手が数多く揃っているはずなのに、オープン戦の結果は12球団ワーストの打率2割3分2厘。ベンチがあまり動かず後手後手で、攻撃にバリエーションがないのです。

 こうした状況からすると、今季の阪神は投手次第でしょう。その点、新加入の呉昇桓はまったく問題ありません。打者の手元で伸びるボールは、見ていても非常に打ちづらそうです。1年目から“絶対的” な守護神になるとまでは言い切れませんが、その要素は十分にあります。その呉昇桓に、いかにつなぐことができるかがカギを握ります。

 昨季の阪神は、前半は首位を走る巨人とわずかな差で優勝争いを繰り広げていましたが、7月にはDeNAに3連敗、8月には巨人に3連敗を喫し、巨人との差が大きく開きました。そこから浮上することなく、最終的には巨人との差は12.5にまで広がりました。2位をキープしたものの、CSファーストステージではホームというアドバンテージがあった
にもかかわらず、3位・広島に連敗し、ファイナルステージ進出には至りませんでした。

 もし今季の前半戦で、昨季の夏場のようなことが起きれば、おそらく今季の阪神はそこから這い上がるだけの力はありません。そうなれば、再びのBクラスのみならず、2001年以来となる最下位という可能性もゼロではないと私は思っています。今季の阪神は、とにかく開幕スタートダッシュして、チームを勢いづかせることできるかポイントとなる。開幕から巨人、中日、ヤクルトと続く9試合で、大きく負け越すようなことがあれば、今季の阪神は危機的状況に陥るかもしれません。

 安定感抜群のロッテ

 一方のパ・リーグは戦力が拮抗していますので、昨季以上に熱戦が期待できると思います。その中で、頭ひとつ抜けているのが李大浩をはじめ、ジェイソン・スタンリッジ、デニス・サファテ、ブライアン・ウルフ、中田賢一、鶴岡慎也、岡島秀樹といった大型補強をした福岡ソフトバンクでしょう。4年目の柳田悠岐など、既存選手も調子がいいですから、他球団との勝負の前に、まずはチーム内での競争に勝たなければなりません。それほど選手層の厚さ、それに伴った戦力はずば抜けています。

 そのほかの5球団は、それこそどこが上位に入ってもおかしくないと言っていいでしょう。その中で私が注目しているのは、千葉ロッテです。昨季、伊東勤監督が就任したロッテは、前半は非常に勢いがあり、首位争いを演じていました。しかし6月以降は徐々に勢いがなくなり、7月は6勝13敗1分。首位争いから3位争いへと様相は色濃くなっていきました。

 正直、今季も目立った選手はいません。しかし、投打のバランスが非常に良く、まとまっている印象があります。投手陣は、昨季セーブ王に輝いた益田直也の離脱は大きいものの、昨季1年目ながらセットアッパー、先発として活躍した松永昂大、昨季一軍に定着した服部泰卓、そのほか南昌輝もいますから、益田が戻ってくるまで十分にカバーできるはずです。あとは、埼玉西武からFA移籍した涌井秀章が、エース成瀬善久とともに先発の柱となれるかでしょう。

 打線はというと、正直言って、大きな軸となる選手は見当たりません。しかし、大きいのを狙うのではなく、コツコツとヒットでつないでいくのがロッテ打線。昨季、大ブレイクした鈴木大地、経験豊富な今江敏晃、井口資仁、そして昨季シーズン途中加入ながら11本塁打、33打点をマークしたクレイグ・ブラゼルと、勝負強い選手はそろっていますので、ロッテらしい攻撃が見られそうです。

 一方、昨季日本一を達成した楽天ですが、これまでの勢いというのではなく、落ち着きが感じられます。ディフェンディングチャンピオンとしての自信がうかがえるのです。昨季開幕24連勝をした田中がチームを去った中で、楽天が連覇に向けてどんな戦いを見せてくれるのかは、今季の見どころのひとつと言っていいでしょう。そのためには、田中に次ぐ絶対的エースの台頭は必須です。候補としては開幕投手の座を争っている則本と美馬学ですが、彼らがさらに信頼を深めることができるか。そして注目のルーキー松井裕樹が、昨季の則本のようにチームの勢いとなれるかにも注目ですね。

 さて、最後にセ・パの順位を予想したいと思います。セ・リーグは、1位・巨人、2位・広島、3位・DeNA、4位・阪神、5位・中日、6位・ヤクルトです。ただし、DeNA、阪神、中日はどこがAクラス入りしてもおかしくないほど拮抗していますので、今季のセ・リーグは激しい3位争いが繰り広げられることでしょう。パ・リーグは、1位・ソフトバンク、2位・ロッテ、3位・楽天、4位・西武、5位・オリックス、6位・北海道日本ハムです。果たして、結果はいかに……。28日、2014シーズンのスタートです!

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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