『be IN スポーツ』というテレビ局の取材を受けた。カタールに本拠を構える、最近まで『アルジャジーラ・スポーツ』と呼ばれていたスポーツ専門チャンネルである。
 取材の趣旨は、W杯へ向けた日本の現状と課題について聞かせてくれ、といったところだったのだが、インタビューの合間、流暢な日本語を話すシリア人のアリーさんがポツリと言った。
「日本での取材、すごく大変です」
 それはそうだろう、わたしだってシリアやカタールで取材するとなったらすごく大変だろうから……と思ったのだが、彼が言いたいのはそういうことではなかった。
「取材をお願いする。そうすると、謝礼を求められるのです。わたしたちの局は、世界中のサッカー選手にインタビューをしてますが、メッシにだってロナウドにだって謝礼を払ったことなんかない。なぜですか?」

 言葉に詰まってしまった。なぜ? わからない。いつから、ならばわかる。Jリーグが発足した時期だ。それまでは完全無料というか、取り上げれば感謝されるだけだったのだが、急に謝礼を要求されるようになった。

 最初に要求してきたのは、確か、ドイツ人のエージェントだったか。そうか、それが世界の常識なのか……と反発しつつ、納得もしてしまった記憶がある。フリーになってからは、取材申請や交渉をすることもなくなったため、いつしかこの問題を意識すること自体がなくなっていた。

 アリーさんは続けた。
「残念ながら、本社に日本の状況としきたりを伝えても、そんなバカな、という反応が返ってくるだけです。当然、謝礼のための予算なんか認めてもらえない。結果として、日本人選手のインタビューがほとんどできていないのです」

 こちらはいよいよ言葉がない。『be IN スポーツ』は中東や北アフリカを中心としながら、全世界に情報を発信している放送局である。取り上げられることによる広告効果は、それこそ途方もないものがあるはずだ。取材に対する謝礼の要求は、彼らからすると驚天動地の出来事だったことだろう。

 折しも、Jリーグは東南アジアへの進出を模索している時期である。その方向は間違っていないし、これからもどんどん進めるべきなのだが、日本を取り上げようとしてくれているメディアに謝礼を要求するとは、ダブル・スタンダードもいいところである。

 おそらく、日本の現状は確固たる哲学や信念に基づくものではなく、単なる前例の踏襲にすぎまい。ならば、期待したいのは鶴の一声である。

<この原稿は14年3月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから