5月3日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ
WBC世界ウェルター級王者
フロイド・メイウェザー(アメリカ/45戦全勝(26KO))
vs.
WBA世界ウェルター級王者
マルコス・マイダナ(アルゼンチン/35勝(31KO)3敗)

“現役最強王者”フロイド・メイウェザーの試合前の“ファイトウィーク” (種々のイベントが催されるビッグファイト前の1週間)が、これほど盛り上がりに欠けることは珍しい。
(写真:試合が近づいているものの、熱気はあまり伝わってこない)
 さまざまなプロモーション活動が開始されても、ビッグイベント前独特のBuzzはアメリカ国内に漂わないまま。その最大の理由は、やはり対戦相手であるマイダナのネームバリュー、商品価値が高いとは言えないことである。

 過去にエリック・モラレス、ビクター・オルティス、デマーカス・コーリー、ホセシト・ロペスといった好選手たちを下してきたマイダナは、もちろん悪い選手ではない。昨年12月にはメイウェザーの劣化版といえる新鋭エイドリアン・ブローナーを破り、一躍名を挙げた。

 ただ、マイダナの勝利を貶めるつもりはまったくないが、この試合ではブローナー側にウェルター級でのタフファイトの準備が整っていない印象が強かった。そして、マイダナには技術的な限界があることは、過去のアミア・カーン、デボン・アレクサンダー、アンドレアス・コテルニク戦での敗戦で示されてしまっている。

 特に一昨年2月のアレクサンダー戦では、きれいにアウトボックスされての完敗(判定は90−100、91−99、90−100の0−3)。アレクサンダーはサウスポー、メイウェザーはオーソドックスという違いはあるとはいえ、この試合を思い返せば、より上質なアウトボクサーであるメイウェザー相手に善戦する姿は想像し難い。
(写真:常に真っ向勝負でファンを沸かせるマイダナだが、今回は相手が悪そうだ)

 メイウェザー側から見ても、パワフルではあってもスピードに欠けるマイダナは怖い選手ではあるまい。サウル・“カネロ”アルバレス、ビクター・オルティス、カルロス・バルディミール、アーツロ・ガッティなど、これまで何度も圧勝してきたタイプとあまり変わらない。

 波乱があるとすれば、強烈かつ風変わりな角度で飛び出してくるマイダナの右が当たったときか。通常の流れからはみ出すような感じで飛んでくる右の強打は、ブローナー戦でも有効な武器になっていた。4年前のシェーン・モズリー戦の第2ラウンドのように、不用意に右パンチを浴びたメイウェザーがダメージを受けるシーンももしかしたらあるかもしれない。

 しかし……たとえ単発で一時的に効かせることはできても、用意周到なメイウェザーをフィニッシュまで持ち込むのは至難の業。仕留め切れなかった場合、マイダナが判定で勝つことはさらに難しいだろう。

「ラッキーパンチを狙わせる気はない。12ラウンド戦って、勝ち切るだけの準備はさせておくつもりだよ」
 マイダナ陣営のロベルト・ガルシアトレーナーはそう語り、コンディショニングコーチのアレックス・アリーザとともに意欲を示す。この2人がチームに加わって以降、マイダナの総合力が向上しているのは事実である。
(写真:アリーザ(左)、ガルシア(右)の指導でマイダナがレベルアップしたのは間違いないが……)

 だが、それでも現実的に、今回のタイトル戦では「メイウェザーの判定勝ち」以外の結果は予想しづらい。ボディに弱点を抱えるマイダナがストップされる可能性も多少はあるが、メイウェザーは無理はしないはず。中盤以降、やや退屈な展開になり、118−110、120−108といった大差で無敗王者の手が上がるのではないか。

“ミスマッチ”“メイウェザーがShowtimeと結んだ6戦契約を消化するためのファイト”と呼ばれてしまっている統一戦を前に、正直言って、筆者の興味も興行の成否の方に向いている。前評判から考えて、マイダナ戦が昨年9月のサウル・アルバレス戦のような驚異的な興行成績を叩きだすことは考えられない。PPV売り上げのガタ落ちは必至で、成功の尺度とされる100万件にも届かないのではないか。

 ただし、ここでビジネス的に失敗することが、ボクシングファンにとって悪い流れだとは思わない。そうなった場合、9月に予定される次戦ではメイウェザーはそれなりの相手を用意しなければならないからだ。
(写真:試合当日に取材に訪れるメディアの数も少なめが予想される)

 プロセスとしては、1年前にロバート・ゲレーロ戦が失敗興行となり、その後の9月にカネロ戦が予想外のスピードでまとまったのと同様。歴史が繰り返せば、Showtimeとメイウェザーは、カーン、ダニー・ガルシアあたりよりも一段上の相手を選ぶ必要が出てくる。

 そこで候補になるのは……階級差があり過ぎるバーナード・ホプキンス、所属テレビ局が違う上にリスクが大きいゲンナディ・ゴロフキンはあり得まい。しかし、6月にセルヒオ・マルチネスに勝った場合のミゲール・コットや、マッチメイク的には容易なピーター・クイリンが保持するミドル級王座に、メイウェザーが挑む冒険マッチ成立の可能性はゼロではないのではないか。

 また、4月12日にティモシー・ブラッドリーを下して商品価値を回復させたマニー・パッキャオの名前も忘れてはならない。リアリティがどれだけあるかはともかく、華やかさに欠けるメイウェザー対マイダナ戦の後に、“現代のスーパーファイト”の実現を求める声が再び盛大に湧き出てくるはずである。

 いずれにしても、マイダナ戦は“メイウェザーにとっての消化試合”という厳しい声を否定するのは難しい。予想が難しいファイトでもなく、恐らくは大方の人が思っている通りの結果に終わるだろう。

 ただ、それでも、現代最高のボクサーであるメイウェザーのキャリアの中で、先に繋げるという意味で重要な一戦なのは事実である。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。この3月に最新刊『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)を上梓。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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