先日、ヤクルトの小川監督は巨人戦を前に「ザッケローニ監督のように攻撃的に行きたい」とコメントしたという。プロ野球の監督が、サッカーの監督を例としてあげる。サッカー好きであると同時に、野球好きでもある人間としては、ちょっとうれしくなってしまった。と同時に、ブレない阪神愛を貫く某スポーツ紙にまで1面を明け渡させてしまったW杯最終メンバー発表の反響の大きさに、いささか戸惑いもした。Jの勝敗が新聞の1面を飾ることがめっきりと少なくなった昨今だけに。
 さて、日本では一気にW杯モードが高まってきた。リーグ戦が終了し、ブラジル行きのメンバーが発表されたイングランド、ドイツなども同様だろう。だが、W杯まで1カ月を切ってなお、それどころではない国がある。スペインである。

 なにしろ、国内リーグがとんでもないことになっている。最終節まで優勝決定が持ち越されるのはよくあることだが、なんと、最終節は1位A・マドリードと2位バルサの直接対決である。こんなことが過去にあったか。少なくとも、66年生まれの私の記憶にはない。超スペイン通の友人プロデューサー氏が教えてくれたところによると、スペインで同様の状況が実現したことは過去に2度あり、最初が45〜46シーズン、次が50〜51シーズンだったという。

 つまり、63年ぶりの大決戦なのである。

 ちなみに、過去に2度あった最終決戦は、首位のチームが敵地に乗り込むという図式で、いずれも1―1の引き分けに終わっている。45〜46シーズンの最終節直接対決で逆転優勝の夢を阻まれたバルサが、50〜51シーズンの最終節直接対決を逃げきったアトレティコをホームに迎えるというのも、何かの因縁か。

 引き分ければ優勝が決まるアトレティコだが、決戦の舞台となるのはバルサの本拠地カンプノウ。ここで勝つのは世界のどんな強豪にとっても簡単なことではないが、前回彼らがリーガを制した95〜96シーズンには、見事3―1の勝利を飾ってヨハン・クライフを更迭に追い込んでいる。

 かつて、日本のプロ野球でも勝った方が優勝という伝説的な直接対決があった。あの試合が日本にとっての「国民的行事」だったとするならば、今回のリーガ・エスパニョーラ最終節は、「世界的行事」である。W杯は4年に一度だが、この対決は半世紀に一度あるかないか、である。どんな結果、内容であれ、伝説的な試合となることは間違いない。

 余談になるが、同じ日にはフランスで「負けた方が2部降格」という直接対決もある。こちらもまた、めったにない決戦である。

<この原稿は14年5月15日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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