27日現在、石川ミリオンスターズは21試合を終えて8勝13敗と負け越している状況です。なかなか勝ち星を積み上げることができない原因のひとつは、やはり先発投手の不調が挙げられます。特に大きいのは、昨季までエースとしてチームの大黒柱だった南和彰(神港学園高−福井工業大−巨人−カルガリーバイパーズ)の調子が戻らないこと。開幕前の3月に痛めた右肩も本調子ではないものの、だいぶいい状態と聞いています。それでも、調子を上げることができていません。本人もはっきりした理由はわからないようですが、とにかく動きが良くありません。身体全体的に本来の柔軟性のある動きができていないのです。ただ、これまでもさまざまな状況に対応してきた経験豊富なピッチャーですから、必ず復調してくると信じています。
 南の代わりにエースとして奮闘しているのが、新加入のループ(米国)です。チームに合流した当初から、活躍をにおわせるだけのボールを放っていましたから、4勝1敗、防御率0.96という成績自体には特に驚いてはいませんが、チームが苦しい状況の中、本当によくやってくれています。

 ループは真っ直ぐにキレがあり、変化球でストライクや空振りをとることができます。制球力もまずまずと、全体的にまとまったピッチャーです。今のままでも十分、BCリーグではやっていけるでしょう。しかしNPBを狙うのなら、スピードアップは必須です。現在、最速は140キロ台ではあるものの、常時平均は130キロ台。これがコンスタントに140キロ台が出るようになれば、NPBのスカウトも目をかけてくれることでしょう。

 スピードアップのためには、もちろん技術的、体力的なことも挙げられますが、まずは考え方を変えること。ループとしては、実際に今、抑えられているわけです。しかし、彼が最終的に目指しているのはBCリーグではないはずです。今のままでは次のステージに進むことはできない。そのことに気づいてほしいのです。

 25日に行なわれた広島カープの2軍との試合では、ループは5回を投げて6安打5失点で負け投手となりました。打線が1巡するまではほぼ完璧に抑えていましたが、2巡目に入ると、ボールをとらえられてしまったのです。NPBに上がるには、さらなるレベルアップが必要だということを、ループ自身が痛感した試合となったと思います。

 打線の柱は1番と4番

 一方、打線の方はチーム打率こそ2割5分1厘とリーグ5位の成績ですが、手応えとしてはそれほど悪くないと思っています。柱となっているのが1番・ドテル(ドミニカ)と4番・島袋涼平(おかやま山陽高−アトランタブレーブス(ルーキーリーグ)−富山サンダーバーズ)です。ドテルは開幕当初、中軸に置いていたのですが、1、2番打者がなかなか調子が上がらない中、「これだけ打率を残しているのにもったいない」という理由でGWから2番に上げ、現在では1番に定着。リードオフマンとしての役割を果たしてくれています。

 実はドテルにいい当たりが出始めたのはGW明けからです。それまでも打率は残していましたが、内容としては詰まったヒットが多かったのです。その原因は、反対方向への意識が強すぎたことにありました。そこで「もっと引っ張っていい」とアドバイスをしたところ、クリーンヒットが増えてきたのです。

 ドテルは足も速く、放っておいたら全球、走ってしまうほど積極的に盗塁を試みます。ですから、ベンチからサインを出すのは「今は走るな」という時だけ。あとは自由に走らせています。彼は盗塁のみならず、自分が打った後や、出塁した後の打者が打った時などの走塁でも、常に次の塁を狙った走りをします。ぜひ他の選手も、こうしたドテルの積極性を見習ってほしいですね。

 そして4番を張る島袋が打線の軸となってくれていることも大きいですね。27日現在、打率3割6分6厘(リーグ6位)、24打点(同3位)と好調をキープしています。富山在籍時から、島袋の素質の高さはわかっていました。ミート力がありますので、特にスコアリングポジションにランナーがいるような場面で迎えると嫌なバッターではありましたね。技術的にもメンタル的にもプレッシャーに負けないものをもっているバッターという印象がありました。ですから、安心して4番に据えたのですが、期待通りの活躍をしてくれています。あえて注文をつけるとすれば、もう少し長打が欲しいかなというところですね。いずれにせよ、このまま好調をキープし続けてほしいと思います。

 さて、前半も残り15試合と半分を切りました。首位の福井ミラクルエレファンツとは2ゲーム差、3位の富山とは0.5ゲーム差ですから、優勝争いはこれからです。打線はドテルが出塁して足でかき回し、島袋が返すというかたちをつくることができていますし、投手陣も上條優太(八千代東高)、ネイディング(米国)、木田優夫(日大明誠−巨人−オリックス−タイガース−オリックス−ドジャース−マリナーズ−東京ヤクルト−北海道日本ハム)と、後ろ3イニングはコマが揃っています。待たれるのは、ループに次ぐ先発投手の台頭です。

 その候補の筆頭に挙げられるのが、新人の長谷川潤(成立学園高−金沢学院大)です。もともと先発のひとりとして期待していた長谷川ですが、まだ十分とは言えません。大学では春と秋の2シーズンにピークをもっていけば良かったわけですが、BCリーグでは半年間もの長期間ずっとキープしていかなければなりません。そのため、調整の仕方や体力維持の方法など、長谷川にとっては初めてのことばかり。さらに大学リーグとのレベルの違いも痛感したことでしょう。BCリーグには力のあるバッターが多いですから、より低めに、厳しいコースをついていかなければなりません。長谷川は今、なんとかレベルを引き上げようと必死で練習していますので、そろそろその成果が表れてくるかなと期待しています。

森慎二(もり・しんじ)プロフィール>:石川ミリオンスターズ監督
1974年9月12日、山口県出身、岩国工高卒業後、新日鉄光、新日鉄君津を経て、1997年にドラフト2位で西武に入団。途中、先発からリリーバーに転向し、2000年にはクローザーとして23セーブを挙げる。貴重なセットアッパーとしてチームを支えた02、03年には最優秀中継ぎ投手に輝いた。05年オフ、ポスティングシステムによりタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)に移籍。2年間のメジャー契約を結ぶも、オープン戦初登板で右肩を脱臼。07年、球団から契約を解除されたものの、復帰を目指してリハビリを続けてきた。09年より石川ミリオンスターズのプレーイングコーチに就任。10年からは金森栄治前監督の後を引き継ぎ、2代目監督としてチームの指揮を執っている。
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