【サイ・ヤング賞】
ア・リーグ
 フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ/10勝2敗、防御率2.10)
次点
 田中将大(ヤンキース/11勝3敗、同2.10)

 7月3日の登板前時点ではヘルナンデスと田中はどちらも防御率2.10で、勝ち星では田中が1つ上回っている。しかし、投球回、奪三振、WHIP、被打率などではすべて“キング・フェリックス”が上だけに、そちらの方に軍配を上げるべきだろう。特に被本塁打では田中が13本、ヘルナンデスが4本と差がついており、本拠地とするスタジアムのサイズを考慮しても、内容的にはマリナーズのエースがやや上である。
(写真:キング・フェリックスは現時点での支配度で田中をも上回る Photo By Kotaro Ohashi)
 それでも最初の15度の先発機会すべてでクオリティスタートを成し遂げた前半戦での田中の活躍の価値が変わるわけではない。新エースの安定感と勝負強さがなければ、先発ローテーションから故障者が続出したヤンキースは、さらに下位に沈んでいても不思議はなかった。

 1年目からダルビッシュ有(レンジャーズ/8勝2敗、防御率2.42)、マーク・バーリー(ブルージェイズ/10勝5敗、同2.50)、スコット・カズミアー(アスレチックス/9勝3敗、同2.61)といった実績ある投手たちを上回る投球を続けてきた適応能力は見事だ。後半戦で疲れが出なければ、田中の新人王、サイ・ヤング賞の同時受賞もあり得ない話ではない。
(写真:好調時には完璧なピッチングで魅せるダルビッシュも有力候補のひとりに違いない Photo By Kotaro Ohashi)

ナ・リーグ
 アダム・ウェインライト(カージナルス/11勝4敗、防御率1.89)
次点
 ジョニー・クエト(レッズ/8勝6敗、同1.99)

 ウェインライトの今季前半戦の防御率はメジャー1位、WHIP(0.90)、1試合当たりの平均投球回(7.3)は同2位、被長打率(.277)は同3位。7イニング以上を投げて無失点の試合が2013年以降13度(クレイトン・カーショウと並ぶ1位タイ)というMLBを代表する好投手は、このままいけば32歳で迎えた今シーズンに自己最高級の成績を残す可能性もある。

 ただ、奪三振ではクエトが大きく上回っており、クエトとウェインライトとの差は実はそれほど大きくない。そして、今季は故障離脱がゆえにやや出遅れたカーショウ(ドジャース/9勝2敗、同2.40)も6月29日まで28イニング連続無失点と絶好調で、今後、存在感を増していくに違いない。現時点で、今季のサイ・ヤング賞争いは三つ巴の様相。“投手の時代”と呼ばれる現代を象徴すべく、超ハイレベルな争いとなっていきそうだ。
 
【MVP】
ア・リーグ
 マイク・トラウト(エンジェルス/打率.311、19本塁打、OPS1.014)
次点
 ホゼ・バティスタ(ブルージェイズ/打率.304、17本塁打、OPS.970)
 
 走攻守のすべてをハイレベルで備えたトラウトが、現役メジャー最高の選手であることにもう疑いの余地はない。今季は6月27日のロイヤルズ戦で489フィート(約149m)の大ホームランをかっ飛ばしたかと思えば、盗塁も全10度の機会をすべて成功させるなど、そのオールラウンドな魅力を存分にアピールし続けている。
(写真:ヤンキースでも不敗神話を継続した田中は、一時はサイ・ヤング賞のみならずMVPの候補に挙げられたほど Photo By Kotaro Ohashi)

 そのトラウトもMVP投票では過去2年続けて2位に甘んじてきた。しかし、今季は所属するエンジェルスがプレーオフ争いに参戦していること、2年連続MVPのミゲル・カブレラ(タイガース/打率.311、14本塁打、OPS.909)が(彼にしては)平凡な数字に止まっていることから、22歳の俊才が最有力候補であり続ける可能性は高い。

 ただ、ア・リーグ東地区で首位を走るブルージェイズを支えるバティスタ、中地区本命のタイガースの中核を成すビクター・マルチネス(タイガース/打率.323、21本塁打、OPS.974)とカブレラ、MLB最高成績で地区首位を突っ走るアスレチックスのジョシュ・ドナルドソン(アスレチックス/打率.245、18本塁打、OPS.784)などもここまで好調。各地区を代表する強豪の主役たちが候補になるだけに、優勝、プレーオフ争いの行方が、MVP選考にも少なからず響いてくることになりそうだ。
(写真:バティスタは豪快な打撃でブルージェイズの中核を成してきた Photo By Kotaro Ohashi)

ナ・リーグ
 ジャンカルロ・スタントン(マーリンズ/打率.313、21本塁打、OPS1.014)
次点
 トロイ・トゥロイツキ(ロッキーズ/打率.351、18本塁打、OPS1.056)

 MVPとは圧倒的な個人成績を残したスーパースターに与えられるべきか、それとも強豪チームの要となってきた選手が選ばれるべきか。両方を兼ね備えた存在がいれば選考は容易だが、今季ここまでのナ・リーグはそうなってはいない。

 遊撃手という負担の大きいポジションながら、打率、出塁率、OPSなどで驚異的な数字を残すトゥロイツキこそが、ナ・リーグの前半戦ベストプレーヤーだった。ただ、所属するロッキーズは地区首位のドジャースからすでに11.5ゲームの差を付けられている。そのチームで打ちまくる主砲を、“最も価値のある選手”と認めて良いのかどうか。

 今回はそのトゥロイツキは次点止まり。24歳にして完全開花を感じさせる数字を残し、層の薄いマーリンズをプレーオフ争いに留まらせる原動力となったスタントンを“前半戦で最も価値の高い選手(MVP)”に選びたい。

 ただ、リーグ最高の勝率を残してきたブリュワーズを正捕手として支えたジョナサン・ラクロイ(打率.331、8本塁打、OPS.911)、パイレーツの大黒柱アンドリュー・マッカッチェン(パイレーツ/打率.313、12本塁打、OPS.938)らを高く評価する声も少なくない。

 前半戦を終えた時点で大本命は不在。稀に見る大混戦のMVP争いになりそうな予感がすでに漂ってきている。

※記録はすべて現地2日現在

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。この3月に最新刊『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)を上梓。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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