幹事長がいて幹事長代行がいる。幹事長代行がいて幹事長代理がいる。幹事長代理がいて副幹事長もいる。
 これらのポストが同時に存在するのだから、政治の世界は、ややこしい。ところで政党において代行と代理は、どちらが格上なのか。答えは前者なのだが、永田町の住人以外で、どれだけの人間が、これを知っているだろう。
 そこへ行くとプロ野球の世界は、まだわかりやすい。正規の監督が病気や成績不振で“休養”を申し出たり、解任された場合、監督代行が指揮を執る。同じベンチに監督代理がいることはない。

 今季、球界には3人の監督代行が生まれた。東北楽天の佐藤義則、大久保博元と埼玉西武の田辺徳雄である。佐藤は星野仙一監督の病気療養後、監督代行を務め、約1カ月後に大久保にその座を譲ると、元の投手コーチに戻った。田辺は前監督の伊原春樹が成績不振を理由に休養したのを受け、球団から指揮を委ねられた。

 残り10人の現役監督の中に監督代行(一時的なものを除く)を経験した者が2人いる。東京ヤクルトの小川淳司とオリックスの森脇浩司である。2010年5月、成績不振の前監督・高田繁から火のついたバトンを受け取った小川はこの年、指揮官として59勝36敗3分け、勝率6割2分1厘という好成績を残した。この数字はリーグ優勝を果たした中日・落合博満監督の5割6分を上回るものだった。その手腕が評価され、翌年から正規の監督に就任した。

 森脇は2度、監督代行を経験している。最初は福岡ソフトバンク時代の06年7月、王貞治監督の手術に伴うもの。2度目はオリックスのコーチ時代の 12年9月、岡田彰布監督の解任を受けてのもの。2度にわたる監督代行の戦績は37勝24敗3分け、勝率6割7厘。選手からの評判もよく、代行ではもったいないような気がしたものだ。正規監督就任2年目の今季、森脇は完全にチームを掌握した観がある。

 監督代行への指揮権移譲はチームにとっては有事であり、ピンチである。しかし自らのキャリアパスを考えるなら、このチャンスをモノにしない手はない。かつてプロ野球の監督になるのは、大臣になるより難しいと言われたものだ。組織を活性化させる上で必要とされる人事の多様性、流動性を確保するためにも、12の椅子しかない監督への出世コースには「非正規」の道があっていい。

<この原稿は14年7月23日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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