後期も折り返し地点に入り、いよいよ優勝争いも佳境に入ってきます。12日現在、富山サンダーバーズは17試合を終えて8勝8敗1分け、勝率5割。チーム状態は、良くも悪くもあるといったところです。波に乗り切れてはいませんが、それでも前期のように自滅したり、一方的な試合内容で落とすということはほとんどありません。特に7回以降の終盤には、違いを感じています。前期はたとえ1、2点差でリードしていても、最後に逆転されることが少なくありませんでした。それが今ではきっちりと守り切れています。その点では、前期と比較して確実にチームは成長しています。
 また、攻撃面では「もう1点が欲しい」というところでの1本が出ることが増え、それによって終盤に追いついたり逆転したりする試合も出てきました。さらに、2死からでもチャンスをつくることも増えています。それだけ試合の状況を考えられるようになってきたということでしょう。とはいえ、一気にたたみかけるというところまではいかず、残塁が多いのも事実です。

 選手たちに伝えているのは、これからはいかに頭を使って体を動かすかだということです。後期の後半は、前期のように気持ちや元気だけではカバーすることができない部分がたくさん出てきます。なぜなら、何度も対戦していますので、相手も分析して、ある程度知られている中で勝たなければいけないからです。逆に気持ちだけでいこうとすれば、相手にそれを読まれ、分が悪くなることも十分に考えられます。

 1番・野原、3番・大上戸のワケ

 さて攻撃面ですが、5月にニック・エーキンズ(米国)が加入して以降、それまで主に4番だった野原祐也(大宮東高−国士舘大−富山−阪神)を1番に、主に1番だった大上戸健斗(遊学館高−大東文化大)を3番に替えました。まず、野原を1番に起用した理由のひとつは、初回から相手にプレッシャーを与えたいと考えていたらからです。4番では、初回が三者凡退で終わると、打席が回ってきません。それでは相手投手の立ち上がりにプレッシャーを与えずに済んでしまいます。そこで長打だけでなく、足もある野原を1番にしたのです。

 また、彼を1番にしたことで、下位からのイニングの時にはチャンスで「1番・野原」に回ってきます。そうすると毎回のように、強打者である野原かニックどちらかに回ってくるケースが出てくるのです。これでは相手投手はまったく気を抜くことができません。こうした目に見えないプレッシャーを、野原を1番に置くことで相手に与えることができます。

 そして、大上戸を3番に置くようにしたのは、彼が打席の中で自分のスイングをして終わることができる打者だからです。実戦の打席で、自分のスイングができるかどうかということは、バッティングにおいて非常に重要なことです。これは相手投手にとっても嫌なもの。そのため、大上戸には思い切り自分のスイングをしてもらうために、3番にしたのです。後ろには4番・ニックが控えており、大上戸の結果が後続に引きずらずに済むからです。

 成長につながる欲が出てきた塩

 一方、投手陣の方は疲労もあるとは思いますが、よく頑張ってくれています。特に先発陣は、たとえ1試合調子を崩しても、次の試合では復調し、悪い状態がズルズルと続くということはありません。なかでも、勝ち頭である塩将樹(藤沢翔陵高−神奈川大−横浜金港クラブ)は、現在リーグ2位タイの8勝(3敗)ですが、内容的には既に2ケタいっていてもおかしくありません。7日の石川ミリオンスターズ戦も6回まで2失点とまずまずのピッチングをしていました。打線も6回に同点に追いつき、ここからというところでしたが、残念ながら7回表2死のところで降雨コールドゲームとなってしまいました。

 塩は5月16日の福井ミラクルエレファンツ戦で初めて完投しました。しかも4安打完封したのです。さらに6月15日の石川ミリオンスターズ戦では延長10回を1人で投げ抜きました。塩は自分は普通に投げれば、1試合を投げ切ることができるとわかったはずです。だからでしょう。現在はいい意味での欲が出てきて、内容にこだわるようになっています。たとえ数字では抑えていても、自分の球やフォームに納得しないのです。こうした向上心は選手を成長させてくれます。

 しかし、これまでと同じ調整ではうまくいかず、結果が出ないこともあるでしょう。だからこそ必要なのが、自分に敏感でいること。これは塩に限ったことではありませんが、単にいつも通りやっているというだけでは、自分自身に鈍感になります。「これができていれば大丈夫」というように、1日の中で自分自身の調子を確認できるような具体的なバロメーターが必要です。そうすれば、自分の異変に気付くことができ、修正することができます。

 さて、前期は優勝したとはいえ、負け越したままでの優勝でした。そのために、選手たちは「勝たなければいけない」と、常にチームの勝利を最優先にしなければならず、何かやりたいことがあっても思い切ってトライすることができなかったはずです。ですから、後期はぜひ貯金がある中での戦いをし、選手たちには前期とは違う経験をたくさんして、成長していって欲しい。そして、最後は勝ち越しての優勝をして、胸を張ってプレーオフに臨みたいと思っています。

吉岡雄二(よしおか・ゆうじ)>:富山サンダーバーズ監督
1971年7月29日、東京都生まれ。帝京高校3年時にはエースとして春夏連続で甲子園に出場。夏は全5試合に登板し、3完封と優勝に大きく貢献した。打者としての素質も高く、高校通算本塁打数は51本を数えた。90年ドラフト3位で巨人に入団するも、右肩を手術。4年目の93年から内野手に転向した。97年オフ、交換トレードで近鉄へ。2004年の球団合併に伴い、新規参入の東北楽天に移籍した。09年にはメキシカンリーグでプレーする。10年オフに現役を引退。翌年、愛媛マンダリンパイレーツ(四国アイランドリーグplus)の打撃コーチに就任。14年からは富山サンダーバーズの監督を務める。
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