J1も後半戦に入り、優勝争い、残留争いが過熱しつつあります。その中で上位は団子状態です。1位の浦和レッズから4位・川崎フロンターレまでの勝ち点差はわずか2。例年同様、今季も最終節まで決着がもつれ込む可能性も充分あり得ます。上位チームで、私が注目するのは鹿島アントラーズです。W杯中断期間前の第14節から8戦負けなし。現在、4連勝中です。鹿島の好調の要因、それは若手の台頭にあると私は見ています。
 若手が勢いもたらす鹿島

 近年、鹿島を支えてきたのは曽ヶ端準、小笠原満男、中田浩二、本山雅志、青木剛といったベテランでした。もちろん、今季も彼らは要所でいぶし銀の働きを見せてくれています。ただ、年齢による衰えに加え、高温多湿なゲームコンディション、連戦による疲労が溜まる夏場はどうしてもパフォーマンスが落ちがちでした。

 それが今季は、柴崎岳、植田直通、昌子源、土居聖真ら若手が多く出場しています。彼らの一番の武器は体力です。攻撃では裏へ抜け出し、パスコースに顔を出すなど、オフ・ザ・ボール(ボールを持っていない状態)で精力的に動き回れています。守備でも、相手の動きにきっちりついていくことができていますね。何より、首脳陣に「アピールするんだ」という積極性が、チームに勢いをもたらしているように映ります。勢いのある若手、老獪さを持つベテラン、そして決定的な仕事ができる外国人。今の鹿島はこれらがうまく融合しているといえるでしょう。

 DFラインは植田と昌子を中心によく頑張っています。粘り強く相手に対応し、失点後もガタガタと崩れることがありません。やはり、チームで結果が出ていることも自信をつける上では大きいのでしょう。自信がないと、ラインを下げてしまうなど、後手に回りがちですからね。今後もラインを高く設定し、かつ引く時は引くという状況判断を的確に行えれば、安定した守りを維持できると見ています。

 課題は、SBが攻め上がった時にできるスペースのケアです。この部分でのマークの受け渡しやポジションのスライドがスムーズでないため、攻め上がったSBの裏を崩されるシーンが少なくありません。DFラインがコミュニケーションをとり、守りがシステマチックに連動できるよう、普段の練習から徹底していってほしいですね。

 衝撃だったロングシュート

 攻撃は柴崎を中心にしたかたちが確立されつつあるように感じます。今季の柴崎は運動量が向上し、動き出しの質も上がってきましたね。味方がボールを持った時に、いち早くスペースへ走り出したり、できる限り前線でパスを受けられるようなポジショニングをとれています。これは攻撃のみならず、守備面でもチームを助ける動きです。DFの立場ではできるだけ早い段階で相手ゴール前までボールを運んで、マークやポジションの確認をしたいもの。だから中盤や前線の選手には早くポジショニングをしてほしいんです。私の時代でいえば、ジーコやレオナルドも今の柴崎と同じ働きをしてくれていました。

 ゴールを狙う意識も徐々に高まってきています。第20節(8月16日)のヴァンフォーレ甲府戦で、柴崎は開始1分にロングシュートを突き刺しました。コース、タイミング、思い切りの良さ、どれも素晴らしいものでした。甲府戦のゴールは自信になったでしょうし、今回の代表選出にもつながったと私は思います。実際、代表スタッフがこの試合を視察に来ていたようですからね。視野の広さ、豊富な運動量、そして中長距離から狙えるシュート力。新しい日本代表をつくっていく上で、柴崎への期待値は高いものがあるはずです。

 今回、ハビエル・アギ―レ監督が初めて選んだ代表メンバーには、攻守両面で貢献できる選手が選ばれていると感じます。柴崎は守備の部分では不慣れなこともあるでしょうが、しっかりと組織を考えながら行動すれば問題はないと思います。というのも鹿島では、状況に合わせて考えながらプレーすることを強く求められるからです。守るべきところ、攻めるべきところを選手たちがマルチに判断できる。これが鹿島の伝統であり、強さです。柴崎には代表で“鹿島イズム”を存分に発揮してもらいたいですね。

 柴崎はクラブでは小笠原の後継として期待され、ようやく、それにふさわしいプレーができるようになってきました。今度は代表の舞台で活躍する番です。2012年の代表初選出の際には、試合には出られませんでした。代表の次世代を担う自覚を柴崎も持っていることでしょう。代表定着ではなく、一気にレギュラーの座を獲りにいってほしいところです。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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