6日、石川ミリオンスターズに敗れ、20敗目を喫した福井ミラクルエレファンツは、後期2位以下が確定し、6年連続の後期優勝の可能性がなくなりました。残り3試合(9日現在)は、ファンに感謝の気持ちをもち、また個人それぞれの夢に向かって、一球、一振り、悔いのないようにプレーしてほしいと思っています。
 今季は前後期ともに優勝を逃すという結果に終わりました。後期に優勝ができなかったのは、私が監督に就任して以降初めてのこと。球団としてもプレーオフ進出を逃したのは5年ぶりのことです。要因のひとつには、私自身の成長が足りなかったからではないかと今、感じています。もちろん、いい選手がそろっていたとしても、絶対に優勝できるという保証はありませんが、それでも今年は高い素質をもった選手を抱えながら、彼らの力を最大限に引き出すことができませんでした。

 チームにとってターニングポイントとなったのは、やはり前期の終盤でした。今シーズンは球団初の前期優勝を目標に掲げ、実際にマジックを点灯させ、目標達成までもう少しというところまで来ていました。ところが、マジックが点灯して以降は、残り9試合で1勝7敗1分という成績に終わり、富山サンダーバーズの逆転優勝を許したのです。

 マイナスに働いた優勝への意識

 実は残り10試合になったところで、選手たちには「これからはしっかりと優勝を意識して戦っていこう」と言いました。本来であれば「先のことを考えずに、目の前の一戦、一戦を大事に戦っていこう」と言うべきなのでしょうが、そこをあえて意識させたのです。それは、選手たちの将来のことを考えてのことでした。NPBなど上のレベルに行けば、よりプレッシャーのかかる場面が出てきます。そこで自分のプレーができるようになるためには、今ここであえて意識をさせることが必要だと考えたのです。そして、ここを乗り越えることができた時、選手たちには大きな成長が見られる。そんなふうに考え、いいチャンスだと思いました。

 しかし、結果はマイナスの方に出てしまいました。選手たちはプレッシャーを感じるあまり、それまでの自分たちの野球ができなくなったのです。それでも残り1試合で首位の富山とは0.5ゲーム差。結果的に富山はオリックスに敗れましたので、福井は最終戦の石川戦に勝てば、再逆転で優勝することができたのです。ところが、選手たちにはそれまで以上にプレッシャーがかかったのでしょう。というのも、「優勝しなければ」というほかに「今日は絶対に負けられない」というプレッシャーも感じざるを得ない状況だったからです。それでも8回表を終えた時点では2−1とリードしていたのですが、その裏に一挙3点を奪われ、落としてしまいました。

 キャンプから前期優勝にこだわり続け、その目標まであと一歩と迫りながらも逃したショックはやはり大きく、1週間という期間では気持ちの整理をつけることができずに、そのまま後期に入ってしまわざるを得ませんでした。私もあえて「気持ちを切り替えて、後期に優勝しよう」というようなことは言いませんでした。選手たちはわかっているだろうし、きっとこの悔しさを後期にぶつけてくれるだろうと信じていたということもありました。しかし、今考えると監督である私自身が、悔しさやショックを乗り越えることができず、だからこそ「後期優勝」という新たな目標を口に出すことができなかったではないかと思っています。

 選手それぞれの成長

 優勝こそ逃したものの、この1年で選手たちはそれぞれ成長してくれました。特に成長を感じたのは、3年目の小松崎元樹(東北高−常盤大)です。昨シーズンまでは自ら後輩に声をかけるようなタイプではありませんでしたが、今シーズンは新人や若手の選手に声をかける姿がよく見られました。守っている時に指示を出したり、またベンチでは私が考える野球を伝えてくれることもありました。おそらく過去2年間の経験を経て、いろいろと考えることがあったのでしょう。野球への取り組む姿勢が変わったのです。こうした選手の人間的成長が見られるのは、監督として本当に嬉しいものです。

 また、1年目から主戦として頑張ってくれたのが、ピッチャーの石野公一郎(佼成学園高−東京経済大)と、藤岡雅俊(桐蔭学園高−中央大<中退>)です。まず石野ですが、5日の石川戦に先発し、7回途中7安打3失点で6敗目を喫しました。7月27日の富山戦で6勝目を挙げて以降は白星を挙げられていない状況でもあり、試合後、石野に「どんなところが成長した部分だと思う?」と聞いてみました。すると彼が挙げたのは、前期から課題であった立ち上がりの部分でした。「試合を壊さないように、立ち上がりに気を付けてきた」と答えたのです。確かに立ち上がりに関しては良くなってきています。ただ、白星には結びつかない。もちろん、打線との兼ね合いもありますので、ピッチャーだけの責任ではありませんが、やはり1カ月以上も勝ち星から見放されていますから、まだ自分のピッチングに自信がつくまでには至っていないようです。

 しかし、監督の評価としてはある程度、合格点を与えられると思っています。即戦力として期待して獲得はしたものの、やはりBCリーグでどれだけ通用するかは未知数でした。実際に1年間、投げさせてみてどうなのか、といったところでしたが、とにかく今シーズンはローテーションを守り続けて欲しいと思っていたのです。ですから、これに関しては評価したいですね。ただ、夏場の体力不足、球速を上げられなかったことなど、反省点はたくさんあります。しかし、それも1年を通して投げてみないことにはわからないことです。ぜひ、今シーズンの経験を、次に生かしていってほしいと思います。

 今後への期待膨らむ新人・石野

 一方、藤岡はというと、前期は抑えとして活躍してくれました。しかし、途中で壁にぶつかり、自信をなくしかけた時期もありました。それはチームのターニングポイントともなった、前期の終盤です。6月22日の富山戦、9回表に打線が3点を奪って、4−4と同点に追いついたその裏、抑えとしてマウンドに上がった藤岡はヒット、犠打、ワイルドピッチでランナーを三塁に置いて、サヨナラ打を打たれたのです。その後の試合では、なんとなくマウンドに向かう姿に元気がありませんでした。自分のピッチングで勝敗が決まる抑えという役割は、新人の藤岡には大変だったことでしょう。しかし、もともと強気な性格の藤岡ですから、きっといい経験にして次への糧としてくれることと思います。

 その藤岡には、後期の終盤に入って、先発をさせています。現在2試合に登板し、1勝1敗。1試合目はペース配分がつかめなかったこともあり、3回で既に83球投げて2失点で敗戦投手となりました。しかし2試合目、7日の石川戦では5回を3安打1失点に抑え、初勝利を挙げました。実は、これまでのストレート、カーブ、フォークのほか、この試合では球種がひとつ増えているのです。それはカットボールです。

 藤岡にカットボールがいかにバッターとしては嫌なボールであるかを伝え、投げ方を教えたのは、登板2日前のことでした。普通、わずか2日ばかりの練習では、実戦で試せるものではありません。藤岡もそのようなことを口にしていたのですが、本心を聞けば「投げてみたい」と言うので、「投げてみたらいい」と背中を押しました。すると、本当に彼は7日の石川戦で投げたのです。そして試合後に聞いてみると、手応えを感じたとのこと。実戦で投げるには不安が襲うものですが、藤岡はそれよりも「投げてみたい」という気持ちが強かったのでしょう。そして実際に投げて手応えもつかんでいるのです。類まれな器用さとともに、メンタルの強さをも感じ、さらに今後が楽しみになりました。 

 さて、残りは3試合。これまでファンの皆さんにはいろいろと選手に声をかけてもらったりして、たくさん応援してもらいました。その応援に対して、何が恩返しになるのか、また何がファンの期待に応えることなのかを考えた時、監督としてはやはり勝つことが最大の役目だと思いました。最後まで勝ちにこだわって、チーム一丸となって戦っていきます。

酒井忠晴(さかい・ただはる)>:福井ミラクルエレファンツ監督
1970年6月21日、埼玉県出身。修徳高校では3年時にエースとして活躍し、主将も務めた。89年、ドラフト5位で中日に入団。プロ入り後は内野手として一軍に定着した。95年、交換トレードで千葉ロッテに移籍し、三塁手、二塁手のレギュラーとして活躍した。2003年、再び交換トレードで中日に復帰したが、その年限りで自由契約に。合同トライアウトを受け、東北楽天に移籍した。05年限りで引退したが、07年からは茨城ゴールデンゴールズでプレーした。12シーズンより、福井ミラクルエレファンツの監督に就任した。
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