ペレ二世。ペレの後継者。白いペレ――“王様”ペレの引退後、ブラジル人たちは次の“王様”を探し続けた。新しい王様さえ現れれば、ブラジルは再び王座に返り咲くことができる。メディアもファンも、どこかでそう信じていた部分があった。
 偉大な選手は、長くその幻影を国民の意識に残す。メッシが台頭してくるまで、アルゼンチンの人々がW杯ごとに「次のディエゴ」の出現に期待していたし、おそらくは今後数十年間、ポルトガル人はC・ロナウドを、スウェーデン人はイブラヒモビッチの後継者を探し続けることになろう。

 日本人も例外ではない。低迷期はもちろんのこと、W杯の常連となってもなお、日本サッカー界には「決定力のあるストライカー待望論」が根強く残っている。根底にあるのは、もちろん、釜本邦茂という伝説的なストライカーの存在である。

 釜本が強く、高かったがゆえに、少なくともわたしの中には、ストライカーに対する“超人思想”のようなものがあった。このポジションは極めて特殊な存在であり、育てるものではなく、出現を待つもの――そんな思い込みである。

 どうやら、わたしは間違っていたのかもしれない。

 ブンデスリーガ第5節、マインツの岡崎慎司はまたしてもゴールを奪い、得点王ランクの首位に立った。彼は、決して高くない。高校時代に比べればマシになったとはいえ、俊足というわけでもない。もちろん、メッシのような技術があるわけでもない。そもそも、彼は高校時代でさえもさほど得点力のある選手ではなかった。

 だが、昨季の終盤あたりから、彼は急速に“爆撃機化”した。目の覚めるような一撃はほとんどない。一見、誰にでも決められそうなゴールばかり。爆撃機と呼ばれた不世出のストライカー、ゲルト・ミュラーを彷彿とさせる、“リトルゴール・コレクター”ぶりである。

 わたしは、凡庸なストライカーがどれほど努力したところで、釜本の領域にはたどり着き得ないと思い込んでいた。天賦の才なきものに、得点の量産は不可能だとも思っていた。

 それだけに、岡崎の化けっぷりは大いなる衝撃であり、かつ、喜びでもある。ストライカーは「生まれるもの」ではなく「なるもの」だということを、彼は今、証明しつつある。

 このままの活躍が続けば、日本の少年たちの意識が変わる。中盤偏重になりがちな意識が、大きくも速くも高くもない彼が点をとることで、ストライカーへと向けられることになる。

 ちなみに、「20世紀アジア最優秀選手」とされた韓国の車範根はブンデスリーガで通算98得点をあげている。岡崎は目下30点。今季の得点王とともに、ぜひとも狙ってもらいたい数字である。

<この原稿は14年9月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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