今季は前後期とも3位。前年まで4期連続最下位だったことを考えれば一歩前進と言えるかもしれません。ただ、他球団と比較すると、チーム力の差はまだまだ大きいのが実情です。チームの投手成績、打撃成績をみれば、多くの数字で最下位やワースト。これではなかなか上位を狙えません。
 開幕前から僕は「1年間がキャンプになる」と言ってきました。トレーナーが年間を通じて体力づくりのメニューを組み、選手たちは悲鳴をあげていました。今も高知に残っている選手は30〜40分かけて1000球の打ち込みをさせています。選手たちに与えられた時間は決して多くありません。本気で野球で上に行こうと思ったら、他のことをやる暇はないはずです。

 おかげで選手たちも春先と比較すれば体力がつき、技術も上がってきました。しかし、「インパクトの瞬間をしっかり見て打て」という指示ひとつとっても、1年間かけないと修正できない選手もいます。取り組むべき課題は山積みなのに、ひとつのことに1年もかけているようでNPB入りが近づくはずもありません。ちょっと頑張れば行けるとプロの世界を舐めているのか、それとも、このリーグでそこそこ成績を残すことに満足しているのか……。いずれにしても個々の選手が意識を変えないことには成長はないでしょう。

 独立リーグは選手の入れ替わりが多いのが特徴です。河田直人のようにNPBスカウトからリストアップされ、晴れてドラフト指名を受ける可能性のある選手もいれば、自ら限界を感じ、チームを去る人間もいます。高知で10年プレーした梶田宙が引退し、他にも主力選手が何人も退団しそうな現状です。外国人も流動的な中、来季はどんな陣容になるのか、まだ見当がつきません。せっかく0から1に積み上げたものが、むしろマイナスになってしまう可能性だってあります。

 今季、前後期制覇を果たした徳島を見ると、主力メンバーは何年もリーグで経験を積んだ選手たちです。どの球団もトライアウトやウインターリーグで選手を獲得したものの、新人が活躍するケースは一握りしかありませんでした。独立リーグといえども、いきなり結果を出せるほど甘いところではないのです。

 ですから、11月から始まるトライアウトでも正直、即戦力は期待していません。もちろん長打力があったり、秀でた部分があるに越したことはありませんが、補強ポイントである投手、捕手、外野手で何年かかけてチームの主力になり得る選手が見つかればと思っています。

 おそらく、来季もチームの中心となるのは外国人でしょう。ピッチャーとクリーンアップを打てる選手を何人か連れてくることになるはずです。途中加入したピート・パリーセのように3Aレベルで日本にやってきて活躍したいという選手はたくさんいます。そういった助っ人を探して、チームの軸にするつもりです。

 パリーセはコントロールがよく、四球を出さないため、ゲームメイクができる右腕です。8月29日の香川戦ではノーヒットノーランまであとひとりというピッチングを見せました。味方の援護に恵まれず、2勝止まりでしたが、防御率は2.42と安定していました。

 外国人特有のカット、ツーシームでバットの芯を外すタイプで、本人はNPB入りをめざし、宮崎のフェニックス・リーグでアピールしようと張り切っています。変化球への対応もうまいNPBのバッター相手には、欲を言えば縦の変化球がほしいところですが、制球力を買って獲得に乗り出す球団が出てきてくれればと願っています。

 ドラフト候補の河田は9月に死球を受けて、小指の付け根を骨折し、残り試合をほぼ棒に振るかたちとなりました。ただ、ケガは癒え、フェニックス・リーグには元気に参加しています。彼は前期は3割5分近いアベレージで首位打者でしたが、最終的には打率.316と数字が落ちてしまいました。

 また3割以上打っているにもかかわらず、打点はわずか21。前を打つバッターの出塁率の問題があるにせよ、これは少なすぎます。打席での考え方、狙い球の絞り方、見極めに課題が残った1年になりました。NPBのスカウトが、これらをどう評価するのか。いずれにしても、体力、技術に加え、頭の部分も磨いていかなければ、競争は勝ち抜けません。

 他球団には元NPB選手を受け入れて補強しているチームもありますが、僕はその方法はとりません。あくまでも独立リーグは上のレベルを目指す選手たちが集まる場所。外国人も含め、選手を育ててチームを強くするスタイルを貫きたいと考えています。

 ピッチャーでは平良成航大松本英明といった選手が、この1年である程度、投げられるレベルになってきました。今季をステップに、来季へつなげてくれれば、試合を任せられる存在に成長するでしょう。

 来季は、何とか今季以上の戦力を整え、目の前の勝てる試合をひとつずつモノにできるチームにしていきます。まだまだ長い道のりですが、高知の皆さんには、引き続き長い目で応援していただければありがたいです。


弘田澄男(ひろた・すみお)プロフィール>:高知ファイティングドッグス監督
 1949年5月13日、高知県出身。高知高、四国銀行を経て72年にドラフト3位でロッテに入団。163センチと小柄ながら俊足巧打の外野手として活躍し、73年にはサイクル安打をマーク。74年には日本シリーズMVPを獲得。75年にはリーグトップの148安打を放つ。84年に阪神に移籍すると、翌年のリーグ優勝、日本一に貢献した。88年限りで引退後は阪神、横浜、巨人で外野守備走塁コーチなどを歴任。06年にはWBC日本代表の外野守備走塁コーチを務め、初優勝に尽力した。12年に高知の球団アドバイザー兼総合コーチとなり、14年より監督に就任する。現役時代の通算成績は1592試合、1506安打、打率.276、76本塁打、487打点、294盗塁。ベストナイン2回、ダイヤモンドグラブ賞5回。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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