明後日にはもう次の試合があるというのに、まだ先週土曜日の試合が忘れられずにいる。それぐらい凄かった、レッズ対ガンバの首位決戦だった。
 誕生から20年以上が経過したJリーグだが、そろそろ生まれていてもおかしくないのに、ほとんどその気配すらなかったものがあった。「伝統の一戦」とも呼ぶべきカードの存在である。

 あらためてここで書くまでもないだろうが、サッカーの歴史が長い欧州や南米では、その時点での調子や順位とは関係なく、無条件で世界の注目を集めるカードがある。スペイン語圏で言うならば“クラシコ”、英語にすれば“ナショナル・ダービー”だろうか。どちらのチームの選手もファンも、ここだけには絶対に負けられないと意気込む試合――それがJリーグには欠けていた。

 もちろん、FC東京対川崎フロンターレの“多摩川クラシコ”やジュビロ対エスパルスの“静岡ダービー”には、20年前の日本サッカーにはなかった特別な空気もある。ただ、残念なことにライバル関係にある両チームが同時に優勝争いをしたことはほとんどなく、ゆえに全国的な注目を集めるところには至らずにきた。

 だが、どうやらそんな時代にも終止符が打たれることになりそうだ。

 レッズとガンバは、もちろんJリーグ創設時からのライバルではあるものの、両チームの選手、ファンに相手に対する特別な感情があったとは思えない。実際、3月の開幕戦からは、この顔合わせが特別なものになりそうな気配はまったくなかった。あの時点では、青よりも赤の方が圧倒的に格上の存在だった。

 8カ月後、急上昇を続けたガンバの勢いは、ついにレッズを脅かすところまで来ていたものの、レッズのファンの意識としては、ライバルを迎えるというよりは2位を迎撃する、といった感じだったのではないか。試合開始時点で5あった両者の勝ち点差は、首位の側に明らかな余裕をもたらしてもいた。

 だが、そこでレッズは敗れた。W杯、欧州CL、世界3大リーグ……ありとあらゆる国の、ありとあらゆる歴史をさかのぼっても、ちょっとないぐらいに神がかった、間違いなく伝説になるであろう長谷川監督の采配の前に沈んだ。

 たとえこのままレッズが優勝することになったとしても、多くのファンにとって、ガンバは特別な存在になった。絶対に叩きのめさなければならない、許しがたき存在になった。一方、敵地で奮闘した数千人のガンバ・サポーターにとっても、生涯忘れ得ぬ一戦となったことだろう。

 14年11月22日、埼玉スタジアム。日本にナショナル・ダービーが生まれた日――きっと、後年の歴史家はそう記述することになる。

<この原稿は14年11月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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