12月の2週目と言えばホノルルマラソン。今年で42回目を迎えた歴史ある大会だが、毎年3万人を超える参加者で賑わいを見せ、人気にかげりはないようだ。日本人からの人気も相変わらずで、参加者は1991年に初めて1万人を超えて以来、9.11があった2001年を除いては常に1万人上回った。もちろん今年も1万人を超える参加者で盛り上がった。
(写真:虹の架かるホノルルマラソン)


 ホノルルマラソンと言えば「制限時間のない、ゆるい雰囲気で行われる初心者向けマラソン」というイメージがあり、シリアスに走っている人には向かない印象がある。雑誌の特集の組み方や報道を見ても競技という色は薄く、あくまでも初心者の挑戦というタッチ。やはりここは初めてのフルマラソン向きの大会なのか。ランニングの専門会社であるアールビーズ社が国内ランナーに取ったアンケートでは、行ってみたい海外マラソンでのNo.1に輝いた。それも回答者の40%を超える人が「ホノルル」と答えている。ちなみに2位の大会は8%だったのだから、この差がホノルルの群を抜く人気を物語っていると思うが、この中にどのくらいビギナーとシリアスランナーがいるのかはわからない。ただ、実際の参加者属性をみていてもビギナー率が相当に高いので、やはりビギナーに人気の大会ということが言えよう。

 今年のホノルルマラソンは、天候が悪く、スタート前から雨と風に悩まされた。まぁ、気温がそれほど低くないので国内マラソンよりいいのだが、南国マラソンを想定していた参加者たちには少々試練の時間帯もあっただろう。でもその雨の中、笑顔で応援してくれる観戦者やボランティアがいた。この島はスポーツイベントが多く、住民もその受け入れは手慣れたものである。「応援を楽しむ」ということを良く知っている人々だ。日本国内の大会で、なかなかこの柔らかい雰囲気をつくれないのは、関わる人が心から、そして気楽にボランティアなどを楽しむ空気感を醸成できないからだと思う。近年でこそ、東京マラソンを中心にそのあたりを実現しつつあるが、それもロールモデルはホノルルマラソンであることに違いない。

 速く走ること以外の魅力

 ホノルルで雨が降ると、必ず虹が顔を見せる。頻繁に雨が降った今年の大会中は何度も素晴らしい虹に遭遇することができた。1度は自分が行く道の先から虹が始まっているのを見ることができて、周囲のランナーとともに感動したこともあった。こんな素晴らしいロケーションで行われるのもこのマラソンの魅力。人も素晴らしいが、やはりロケーションの素晴らしさも、なかなか他では真似できないものだ。

 今回、私が担当しているツアーの中に、83歳の男性参加者がいた。1人でツアーに参加し、42.195?を9時間でフィニッシュ。「いやぁ、9時間もかかってはダメですね。次回は8時間台で!」などと言って、そのまま夕方には街に出かけていったのだから驚きだ。さらには出発前に足を怪我してしまい、松葉杖でスタートし、そのまま10時間歩き通した男性もいた。松葉杖の経験のある人ならその大変さを理解できると思うが、僕にはとても真似はできない。女性では80歳の人もいた。失礼ながら腰が曲がっていて、とてもマラソンをするようには見えないのだが、なんと10時間超でフィニッシュ。ちなみにツアーの中で最終フィニッシュは12時間だった。

 この人たちは、制限時間の厳しい日本国内のマラソンではとても完走できない。国内では長い大会でも7時間程度。8時間を超えるような人が参加できる大会はほぼ皆無だ。つまりホノルルがなければ、83歳の男性も、80歳の女性もフルマラソン完走という目標を作ることさえできなかった。ホノルルがあったからこそ、日々頑張ることができたのだろう。そして、そんな人たちの頑張りを目の前で見ることができるのも、この大会の素晴らしいところだと思うのだ。

 マラソンに取り組んでいる人は、すぐにタイムの話になり、持ちタイムで人間関係のヒエラルキーをつくるような傾向がある。もちろん「タイム」という大きな目標があるのはいいが、それだけでは必ずどこかで行きづまってしまう。速く走ること以外にマラソンの喜びを見出すことは、長く続けるためには大切なこと。そういう意味で、ホノルルは絶好の機会かもしれない。地元の人々とのふれ合い、自然を感じながら走る喜び、通常のマラソン大会では見ることのない人々の挑戦する姿……。マラソンを走ることができる幸せ、マラソンを通して見えるもの、そんなことを感じてもらえるのではないかと。

 タイムを競うことと、旅のように五感を刺激し、感じながら走るのも、どちらもマラソンの醍醐味。記録ではなく記憶に残すことのできるという点でホノルルマラソンは最適なのではないか。そんなことをホノルルに架かる虹を見ながら考えていた。
 さて、あなたにとって「マラソン」ってなんですか?

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。昨年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
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