新年を迎え、オフのトライアウトや外国人の補強を経て、今季の陣容が少しずつ見えてきました。高知の一番の補強ポイントは投手陣。欲をいえば、東北楽天に行った入野貴大(元徳島)のように、ひとりで16勝をあげられるピッチャーがいればと思っていたのですが、そんな選手はNPBも見逃すはずはありません。トライアウトでは即、チームの柱になりそうなピッチャーを獲得できなかったのが実情です。
 今季はリーグ戦のシステムが変わり、前後期の日程が過密になることが予想されます。その分、投手力がより問われるシーズンになることは間違いありません。少なくとも9人は使えるピッチャーがいないと、チームは回らないでしょう。

 昨季から引き続きチームに残る日本人ピッチャーは3名、ここにトライアウトで入団する秋山陸(國學院栃木高−BBCスカイホークス)を加え、カープドミニカアカデミーからも右左ひとりずつピッチャーがやってくる予定です。これでも、まだ6名。米国のエージェントを通じて、もう1人確保できそうで、引き続き、現地でリサーチしてもらっています。

 目星がつかなければ、昨季途中に加入し、このオフには東北楽天のテストを受けたピート・パリーセや、32試合に登板したレイモンド・ビラセニョールを呼び戻すことも視野に入れています。外国人は未知数の部分が多く、当たり外れは来てみないと分かりません。とにかく開幕までには頭数を揃えたいと考えています。連戦が続きますから、投手起用もイニング数を区切って、中2、3日で回す工夫も必要になってくるでしょう。

 野手も梶田宙(現球団社長)や村上祐基が引退するなど、主力で残留する日本人は河田直人根津和希中村憲治夏山翔太あたりです。河田に関してはNPBの数球団から調査書が届きましたが、結局、ドラフト指名はありませんでした。

 河田には、本当にNPBに行く気があるのか、少し突き放して本人に考えさせたいと思っています。当然、本人に聞けば「行きたい」と言うでしょう。ならば日常生活から何をすればいいのか、もっと真剣に取り組むべきではないでしょうか。

 僕の目からすれば、河田はNPBに行くには、まだ物足りません。成績面をみても打点が少なく、勝負弱さが出てしまいました。グラウンドでの立ち居振る舞いも、NPBの選手たちと比較するとピリッとしたところが感じられません。日頃の行動からスカウトはよく見ています。これは僕も何度か指摘してきたことですから、本人はよく分かっているはずです。

 分かっていてできないのか、しないのか。いずれにしても大きく変わったところをみせないと今年も指名はありません。自分自身と真摯に向き合い、逃げ道や言い訳をつくることなく、どこまで追い込めるか。この1年、彼の必死度を見極めたいと思います。

「NPBで成功するには2拍子が必要」。これが僕の持論です。よくアマチュアの選手で「走攻守3拍子揃った」という評価を見聞きします。これは高い次元の3拍子ではありません。真の意味で「3拍子揃った」と形容できるのは、日本ではイチローくらいのものでしょう。あの長嶋茂雄さん、王貞治さんだって、打撃や守備は一級品でも、走塁はずば抜けていたわけではありません。

 もちろん、打つだけ、走るだけ、守るだけという1拍子の選手はごまんといます。野手の場合、そういった選手でも守備固めや代打、代走で試合に出られるチャンスはありますが、それだけでは1軍に定着できません。僕も振り返れば、最初は内野の守備固めからのスタートでした。そこから打撃や走塁技術を磨き、何とか2拍子の選手を目指そうとした結果、NPBで17年間、プレーできたと思っています。

 もっと言えば、「走る」といっても50メートル走のタイムが速いのと、野球で通用するかどうかは別問題です。“世界の盗塁王”と呼ばれた福本豊さんは素走りがとてつもなく速かったわけではありません。しかし、ピッチャーのクセを盗み、イチ早くスタートを切れたからこそ、あれだけの盗塁を重ねられたのです。

 このリーグにやってくる選手でも「俊足」をウリにする人間は大勢います。本当に走ることが秀でているなら、独立リーグのレベルだと、80試合で60盗塁くらいしてもおかしくないでしょう。ところが、そんな選手は実際にはいません。つまり、本人は「足が速い」と勘違いしているだけで、プレーする上での「走る」能力は低いのです。

 こういった勘違いは他でも見受けられます。「肩の強さ」もそのひとつです。遠投で100メートルを投げて「肩が強い」と自慢する選手の多くは、山なりでスローイングをしています。いったい試合中に山なりで送球する場面が何度あるでしょうか。せいぜい攻守交替時にファンサービスでスタンドにボールを投げるくらいでしょう。野球で求められるのは矢のような送球で、どれだけ速く、正確に投げられるか。ここを追求しない限り、「肩の強さ」はアピールポイントになりません。

 今回のトライアウトでは、野手で掘り出し物になりそうな素材が見つかりました。1巡目で指名した大城優太(嘉手納高−沖データコンピュータ教育学院)です。彼は九州開催のトライアウトで参加人数が少ない中、非常に目立ちました。目に留まったのは内野守備。シートノックでの打球の入り方、スローイングが安定していました。高知は失策の多さも課題だっただけに、彼がショートのポジションを奪うかたちになれば、内野の守備は昨季より改善されるでしょう。スイッチヒッターとしてバッティングは要修正ですが、実戦向きの選手が獲得できたととらえています。

 とはいえ、新人ですからプロとして必要なスキル、考え方を1から教えないといけないでしょう。昨季は「シーズン終了までキャンプ」を宣言し、実際に1年間、試合に向けた調整は一切しませんでした。おそらく今季も同じスタイルになるはずです。

 その中で、昨季よりはチームが成長した部分をファンの皆さんにはお見せしたいと思っています。今季も引き続き、よろしくお願いします。


弘田澄男(ひろた・すみお)プロフィール>:高知ファイティングドッグス監督
 1949年5月13日、高知県出身。高知高、四国銀行を経て72年にドラフト3位でロッテに入団。163センチと小柄ながら俊足巧打の外野手として活躍し、73年にはサイクル安打をマーク。74年には日本シリーズMVPを獲得。75年にはリーグトップの148安打を放つ。84年に阪神に移籍すると、翌年のリーグ優勝、日本一に貢献した。88年限りで引退後は阪神、横浜、巨人で外野守備走塁コーチなどを歴任。06年にはWBC日本代表の外野守備走塁コーチを務め、初優勝に尽力した。12年に高知の球団アドバイザー兼総合コーチとなり、14年より監督に就任する。現役時代の通算成績は1592試合、1506安打、打率.276、76本塁打、487打点、294盗塁。ベストナイン2回、ダイヤモンドグラブ賞5回。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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