昨年末に行われたボクシング、総合格闘技は好勝負の連続だった。
 まずは12月30日の東京体育館。八重樫東(大橋)の敗北は残念。村田諒太(帝拳)のファイト内容は、いまひとつ物足らぬものだったが、井上尚弥(大橋)の成長ぶりには驚かされた。
(写真:井上(中央)は絶対王者のオマール・ナルバエスを2RKO。世界中のボクシングファンを驚かせた)
 そして大晦日。この日はどこへ行くべきか迷った末に、向かった先は両国国技館。やはり、石井慧とミルコ・クロコップ(クロアチア)のリマッチは見逃したくない。ミルコは全盛期を過ぎ、動き、反応の鈍さが目につくものの、ここ一番での勝負強さは健在だ。ハイキックからのパンチの追撃で石井に完勝。日本人であり、勝利を期待された石井が完敗したにもかかわらず、場内は感動に包まれていた。

 帰宅後、録画しておいたボクシング中継を年明け早朝まで観続ける。

 内山高志(ワタナベ)が9ラウンドTKOで王座V9。河野公平(ワタナベ)のドロー防衛。田口良一(ワタナベ)は殊勲の世界奪取。高山勝成(仲里)は4団体の王座を制覇し、ノンタイトル戦ながら井岡一翔(井岡)もKO勝ち、3階級制覇への歩を進めた。

 そして、やはり最も気になっていたのは、キューバが誇るスーパースター、リジェルモ・リゴンドーに天笠尚(山上)が挑んだ、WBA・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチだ。体格的には挑戦者の天笠が勝る。しかし、実績、実力においては王者リゴンドーが一枚も二枚も三枚も上だ。果たして天笠は、どう闘うのか?

 序盤からリゴンドーが試合をリード。そんな中、7ラウンドに天笠がパンチをクリーンヒットさせ、なんとリゴンドーから2度のダウンを奪う。テレビ画面を観ながら、思わず身を乗り出して立ち上がりそうになった。よく天笠は勇気を絞り出して、拳を振ったと思う。だが、それほど大きなダメージを与えたようには見えなかった。

 1988年7月に内田好之が、渡辺二郎を破ってWBC世界ジュニアバンタム級王者となったヒルベルト・ローマン(メキシコ)に挑んだことがあった。場所は川越市民体育館。無謀なマッチメイクだと周囲から言われた。

 だが、この試合、4ラウンドに内田が、タイミング良くカウンターで左フックを決め、ローマンに尻もちをつかせてダウンを奪う。あの時と似ていた。この直後、ローマンは目が覚めたように攻勢に転じ、5ラウンドTKO勝ちを収める。

 大晦日のリゴンドーもまた、9ラウンド以降、ペースを取り戻して天笠の顔面を破壊、11ラウンド終了時にTKO勝利を得た。

 天笠は善戦した。よくやったと思う。だが、やはりリゴンドーとの実力差は歴然としていた。天笠がダウンを喫した10ラウンドの攻防を観ながら、「もう止めてやってくれ!」と叫びそうになったのは私だけではなかっただろう。米国、南米において、リゴンドーに挑む者が存在しない理由がよく理解できた一戦だった。

 年末の2日間、総合格闘技、ボクシングを存分に堪能させてもらった。ファンは十分に満足できたと思う。だが、こんな声もあった。
「ボクシング人気も長くは続かないのではないか。かつて、総合格闘技が大晦日の人気コンテンツとなっていたが、その後に衰退した。ボクシングも同じ道を歩むのではないか」

 そんな心配は無用だろう。
 なぜならば、ボクシング界は視聴率を上げたくて仕方のないテレビ局の無茶な要求を無条件で受け入れ、馬鹿げたマッチメイクをほどこしたわけではないからだ。

『K-1 Dynamite!!』をはじめとする総合格闘技イベントは、実力の伴わぬ芸能人をリングに上げてまでして、コアなファンの想いを裏切り、視聴率至上主義に加担した。でも、ボクシング界は、そんな愚かなことには手を染めていない。ボクシングは今後も、さらなる盛り上がりを見せてくれることだろう。

 2015年、ファンは質の高い闘いを求めている。是非観たい一戦……それは井上尚弥vs.井岡一翔、内山高志vs.三浦隆司(帝拳)、山中慎介(帝拳)vs.亀田和毅。これだけ多くの日本人世界チャンピオン、元チャンピオンがいるのだ。ノンタイトル戦でも良いから、ハイレベルな日本人対決が観たい。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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