指導者経験のない者が、いきなり監督(1軍)をやっても成功しない――。
プロ野球の世界では、それが定説だったが、近年は必ずしもそうとは言えないようだ。
2000年代に入ってからでも落合博満、伊東勤(選手兼任コーチの経験あり)、栗山英樹の3人が監督就任1年目でいきなりリーグ優勝や日本一を達成している。
今季の注目は48歳で現役を引退後、3年間のキャスター生活を経てユニホームを着る福岡ソフトバンクの工藤公康だ。
指導者としての経験を積むことなく、いきなり指揮を執る工藤に対しては不安視する向きもあるようだが、杞憂に終わるのではないか。
というのも、工藤には他の監督にはない実働29年という豊富な現役経験がある。最後のチームとなった埼玉西武では2歳下の渡辺久信監督のもとでプレーしている。
理論派の工藤は現役時代からコーチの役割も果たしていた。ダイエー時代には若手捕手の城島健司にリードのイロハを教えた。打たれることを覚悟しながら、城島の要求どおりに投げた。
「なぜ、打たれたかわかるか?」
諭すように後輩に配球を説明する工藤の姿は熱血教師そのものだった。
巨人時代には育成ドラフトで入団した未完のサウスポー山口鉄也を一人前に育て上げた。
山口は語ったものだ。
「工藤さんに会う前はキャッチボールにしろウエイトトレーニングにしろ、ただ単にこなしているだけでした。ところが工藤さんは“今、この筋肉を鍛えているのは、ピッチングのこの動作に役立っているんだ”と。工藤さんには大切なヒントをたくさんいただきました」
年長のコーチへの配慮も忘れない。昨季限りで東北楽天を退団し、今季からソフトバンクの投手コーチに就任する佐藤義則に対しては、わざわざ仙台の自宅にまで挨拶に出向いた。佐藤が感激したのは言うまでもない。人心掌握術も心得たものである。
<この原稿は2014年12月15日号『週刊大衆』に掲載された原稿を一部再構成したものです>
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