実は、猛烈に注目している。バスケ界の改革に担ぎだされた川淵氏の動向に、である。
 ご存じの方も多いと思うが、いま、日本の男子バスケ界は混迷の極みにある。川淵氏に求められるのは、日本バスケットボールリーグとbjリーグ、相当に異なる方向性を持つ2つのリーグを無事に統合させるという難事である。
 企業チームか。はたまた地域密着か。これは20数年前、まさに川淵氏たちが立ち向かってきた問題でもある。あの時、Jリーグはドラスチックなまでに前者を否定し、結果として日本中にサッカーブームを巻き起こすことに成功した。

 だが、プロ野球に比べると企業がお金を落としにくいJリーグの体質は、ここにきて、ブラック企業も驚くほどの低賃金しか受け取れない選手を生み出している。プロ野球には5億円を超える年俸の選手がいるが、サッカーの場合、これだけの額を手にするには海外に渡るより道はない。

 企業か、地域密着か。それともハイブリッドか。これから川淵氏の下す決断は、いささか硬直化した面もあるJリーグ創設時の理念に対する、創設者からの改定案ということになるかもしれない。

 実は、猛烈にショックを受けている。先のアジアカップについて、である。
 わたしが初めてオーストラリアでサッカーを見たのは、00年のシドニー五輪だった。正直、相当な優越感を覚えた記憶がある。

 サッカーをプレーする環境のあまりの貧弱さに。

 あの当時、オーストラリアにおけるサッカーは完全なマイナースポーツだった。当然、専用スタジアムなどはない。会場として使われたのは、クリケット場であり、陸上競技場であり、仮設のスタンドをつけた“にわか競技場”だった。

 あれから15年。状況は劇的に変わっていた。使用された5会場はすべたフットボール専用競技場であり、選から漏れた4会場も、また然りだった。

 芝生の状態など、改善すべき点がまだあるのは事実。ラグビーと共用している難しさもあるのだろう。それでも、サッカーを楽しむ劇場の質と量で、オーストラリアは日本を完全に逆転していた。これは、日本代表が敗退したことよりはるかに大きなショックだった。

 なぜプレミア、ブンデスは栄え、セリエAは観客動員で苦しんでいるのか。スタジアムの質に大きな原因があるとわたしは思う。選手の育成はもちろん大切だが、選手がプレーする器の質も、競争力を高める上で必須の条件である。

 Jリーグは、国内外に多くのフォロワーを生んだ。Aリーグという名称を選んだオーストラリアもその一つである。だが、Jが先駆者であった時代は、このままでは終わる。変わらなければならないのは、何もバスケ界に限った話ではない。

<この原稿は15年2月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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