ゴツンからスパンへ――。
 現役では最長となる8年連続打率3割以上を目指す福岡ソフトバンク内川聖一の今のテーマがこれだ。


 キャンプ地の宮崎で内川は語った。
「これまでは木刀でゴツンと叩くというイメージだったのですが、今は真剣でスパンと斬り抜いてみせたい。
 要するにピッチャーが投じるボールを1球で仕留めたいんです。無駄な動きを極力排し、一振りで勝負する。そういうイメージで打席に立ちたいと思っています」

 内川の話を聞いていて、ソフトバンク球団会長・王貞治の現役時代を思い出した。広く知られるように、王に一本足打法を伝授し、指導したのが、巨人の打撃コーチ・荒川博である。
 荒川は王に真剣を持たせ、パンツ一丁で“たんざく斬り”をさせた。

 これにより、どんな成果が得られたのか。
 王は語った。
「新聞紙でつくったたんざくは、横っ面を叩いても斬れません。運動の方向に刀の刃が向いていなければダメ。刀を使うことでボールの中をバットが通り過ぎるように斬り抜く感覚が掴めました」

 ――その中でのタイミングの取り方、間のつくり方がバッティングに役立ったと?
「角度に関しては、よく“上から叩き斬れ”と言われましたが、実際に言えばそれは無理です。バッティングも同様で、上からボールを叩くのがダウンスイングだと考えている人もいたようですけど、ヘッドの重みで、どうしても(バットは)下がってしまう。
 だから僕が常に意識していたのは、必要以上にバットが下がらないこと。だから、上からボールを叩くくらいの感覚で打ちにいくのが、ちょうどいいというわけです」

 さながら居合抜きのように、王は一振りで、ストライクゾーンにくるボールを仕留め続けた。その結果が868ホームランという不滅の金字塔だったのである。

 ひたすらボールを遠くへ飛ばすことに情熱を傾けた王に対し、内川はアベレージヒッターである。
 通算1500安打以上の右バッターで、3割1分以上の打率を残しているのは落合博満と内川だけだ。既にして内川はレジェンドの衣を身にまとっている。

 福岡市内に昨年建てた自宅には専用トレーニングルームを設けた。「誰にも邪魔されない空間」で内川が行う素振りからは、耳を澄ませば「スパン」という音が聞こえてくるに違いない。

<この原稿は2015年3月20日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>


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