先週末のJリーグでは、J2から昇格してきた松本と山形が初勝利を挙げ、これで昇格組は3節までにすべて白星を手にしたことになった。
 昨年、3冠を達成したのはJ2から昇格してきたばかりのG大阪だったが、まっさきに降格が決まったのも、昇格してきた徳島だった。1部と2部との間に存在する格差が、他の国よりも複雑かつ微妙になっているのがJリーグの現状だ。
 ただ、プレーオフを勝ち抜いて昇格してきたチームにとって、ここ数年のJ1は高い壁であり続けてきた。初代プレーオフ王者となった大分も、早々にJ2へのリターンを決めてしまったことを思い出す。

 それだけに、優勝候補の一角でもある川崎Fを相手に挙げた初白星は、不安もあったであろう山形の選手にとって、大きな自信につながることだろう。中断期間中、不安だけを抱いて取り組むトレーニングと、課題は自覚しつつも明確な自信をつかんで取り組むトレーニングとでは、効果の面でも大きな違いが出てくることもありえる。

 石崎監督にとっても、大きな1勝だったことだろう。

 下部リーグの歴史の長い欧州では、いわゆる“昇格請負人”や“2部の名将”と呼ばれる監督が何人かいるが、日本においては彼をおいて他にない。

 なにしろ、95年にNEC山形で監督としてのキャリアをスタートさせてから、Jリーグで仕事がなかった年は札幌がJ2に降格した翌年の1年だけしかない。契約が満了すればすぐに声がかかるのはもちろん、解任されてもそのシーズンのうちに他のチームに引き抜かれたこともあった。欧州では時々見かけるが、日本では極めて珍しい例である。

 ただ、Jで500をはるかに超える試合を指揮し、すでに一定の評価は得ている石崎にも、まだ決定的に足りないものがある。

 J1での実績――。

 1部リーグと2部リーグとの間には、むろん小さくはない壁がある。けれども、その壁の大きさは、世界的に見れば極めて小さなもので、柏、G大阪などは昇格即優勝という形でそのことを証明している。

 昨季まで、石崎はJで245勝を挙げていたが、J1でのものとなると、実は35勝しかなかった。先週末の川崎Fで1勝が上積みされたが、彼の能力と実績を考えればちょっと信じられないほどに小さな数字でもある。

 J2の名将は、今年ついにその殻を破ることができるのか。石崎と同じく、昇格請負人としての評価は高い反町率いる松本はどうなるのか。優勝争いと違い、残留か否かは1年かけて決まるものだけに、じっくり注目したいと思っている。

<この原稿は15年3月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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