10月1日、日本武道館で「K-1 WORLD MAX 2008 世界一決定トーナメント決勝戦」が開催され、魔裟斗(シルバーウルフ)が5年ぶり2度目の優勝を飾った。魔裟斗は準決勝で佐藤嘉洋(フルキャスト/名古屋JKファクトリー)、決勝でアルトゥール・キシェンコ(キャプテン オデッサ)と対戦し、2戦続けてダウンを奪われるなど苦戦したが、最後まで攻めの姿勢を崩さず、第7代K-1ミドル級王者に輝いた。
(写真:優勝して安どの表情を浮かべる魔裟斗)
 この日、最も武道館が沸いたのは史上初の4強日本人対決だった。
“MAXのカリスマ”魔裟斗対“日本人No.2”佐藤。詰めかけた大観衆の声援は真っ二つに割れた。

 開始早々から魔裟斗が前に出る。8月に行った伊豆合宿で磨きあげたパンチを放ち続けた。対する佐藤は距離をとってローキックで迎え撃つ。結局、1ラウンド終了時点では10ー10(3者)とポイント差はつかなかった。続く2ラウンドは1ラウンド同様に突進した魔裟斗が試合を優勢にすすめ、3者が10−9の判定を下した。

 勝負の最終ラウンド。前に出る魔裟斗に佐藤がパンチで応戦する。パンチの回転力に勝る魔裟斗に佐藤は一歩も引かなかった。そして、32秒、佐藤の槍のような右ストレートが炸裂し、魔裟斗がキャンバスに崩れ落ちた。会場に詰めかけた15231人のボルテージがピークに達する。魔裟斗はすぐに立ち上がったが、一気に佐藤ペースになるかと思われた。しかし、魔裟斗はそれを許さない。ダウンを喫したとは思えない勢いのある動きで反撃に転じる。猛攻に押されつつも佐藤はなんとかクリンチでこのラウンドを凌ぎきった。
 3ラウンド終了後に読み上げられたジャッジは、1人目が29−28で佐藤を支持し、悲願の“世代交代”なるかと思われた。しかし、続く2者が28−28のドローだったため、延長戦に突入。3ラウンドに魔裟斗はダウンを喫して2ポイントを失ったが、直後の反撃によって1ポイントを奪い返したというジャッジの判断だった。
 延長ラウンドも両者の意地がぶつかり合う激しい打撃戦となったが、手数に勝る魔裟斗が押し切り、判定10−9(3者)で勝利をつかんだ。
(写真:佐藤は魔裟斗からダウンを奪い、この日の武道館を最も熱くした)
 
 もうひとつの準決勝も激闘となった。前回王者アンディ・サワー(シュートボクシング オランダ)が、若いキシェンコを下し、4年連続の決勝進出を果たすというのが大方の見方だったが結果は違った。
 1ラウンド、ゴングと同時に仕掛けたのはキシェンコだった。積極的にローを放ち、続けざまのワンツーで試合の主導権を握る。対するサワーは流れるようなコンビネーションで応戦した。この展開は3ラウンド終了まで続き、判定は30−30のイーブン。こちらも延長戦に突入した。
 エクストララウンドでは、スタミナ切れかキシェンコの手数が減るが、それでも前に出続けた21歳が勝ち名乗りを受け、決勝へ駒を進めた。

 決勝戦は魔裟斗対キシェンコ。両者は昨年のトーナメント準決勝でも対戦し、魔裟斗が2ラウンドKOで仕留めている。しかし、今回の魔裟斗は佐藤戦でのダメージが色濃く、同じく4ラウンドを戦ったキシェンコよりも不利な状況であることは明らかだった。

 試合開始からキシェンコが強烈なローを放つ。魔裟斗はそのたびに足をふらつかせたが、執念で前に出て、10−9が2者、10−10で1ラウンドのポイントを制した。
 続く2ラウンドのわずか13秒、キシェンコが左フックのカウンターからの右ストレートでダウンを奪い、武道館の大歓声が悲鳴に変わった。しかし、魔裟斗は佐藤戦と同様にパンチで挽回し、3者が8−9をつけ、ポイントをひとつ取り返した。
 そして3ラウンド、ポイントが劣る魔裟斗は反撃を試みるも足が出ない。ダメージの蓄積で踏ん張りがきかず、キシェンコの攻撃に大きくよろめく。さらに踏み込みが弱いためパンチの威力も落ちていた。それでも魔裟斗は気力を振り絞って前に出続けた。3ラウンド終了後のジャッジは28−28が2者、もう1人は28−27で魔裟斗を支持して決着は着かず、両者にとって過酷すぎる延長ラウンドに突入する。
 依然としてステップの鈍い魔裟斗だが、対するキシェンコの疲労もピークに達していた。お互いに足を止めてのパンチの打ち合いが続く。どちらが倒れてもおかしくない状況だったが、激戦を制したのは魔裟斗だった。
(写真:魔裟斗はボロボロになりながらも拳を振り続けた)

 両者の命運を分けたのは“気持ち”だ。「進退をかける」といって挑んだ魔裟斗は満身創痍の体に鞭を打ち、常に前に出た。パンチのあるキシェンコ戦はガードを固めており、ローでダメージを蓄積させる戦法の方が得策に思えた。しかし、最後まで“倒す”ことにこだわる姿勢が王座奪還に結び付いたのだろう。
 試合後、魔裟斗は足を引きずりながらインタビュースペースに姿を現し、「顔と足が痛い。2回も倒れるとは思わなかった」と第一声を発した。さらに、「全てを出しきった。もう2度とやりたくない」と“引退宣言”ともとれる発言を繰り返した。王座を奪還した魔裟斗の去就から目が離せない。

 惜しくも準優勝に終わったキシェンコは「全力以上のものを出しきった。2試合ともいい経験になった」と大会を振り返った。キシェンコは昨年が3位、今年は準優勝と着実にステップアップしている。発展途上にある21歳のファイターは来年のトーナメントでも上位に食い込むだろう。

 準決勝で魔裟斗に敗れた佐藤の表情は晴れやかだった。「魔裟斗選手はやはり強かった。でも僕もまだまだ強くなれると感じた」と激闘のなかで自身のポテンシャルの高さを実感していた。“勝つまでやる”が信条の佐藤は、今回の活躍で来年の優勝候補に躍り出た。

 この日併せて開催された「K-1甲子園 FINAL8」では卜部功也(千葉県立岬高校)、嶋田翔太(私立西部台高校)、日下部竜也(愛知県立豊田高校)、HIROYA(セントジョーンズインターナショナルハイスクール)の4選手が勝利し、大晦日に開催される決勝大会進出を決めた。準決勝の組み合わせは抽選の結果、日下部対卜部、HIROYA対嶋田に決まり、「K-1 Dynamite!!」で“日本一強い高校生”を決める。

 その他の試合結果は以下のとおり。

<オープニングファイト?>
○二キー“ザ・ナチュラル”ホルツケン(オランダ/ゴールデングローリージム)
1R1分42秒 KO
×ヴァージル・カラコダ(南アフリカ/ウォーリアーズミックマーシャルアーツアカデミー)

<オープニングファイト?>※K-1 甲子園 FINAL8
○卜部功也(関東地区優勝/千葉県立岬高校)
3R54秒 TKO
×坪井悠介(中部地区準優勝/静岡県立天竜林業高校)

<オープニングファイト?> ※K-1甲子園FINAL8
○嶋田翔太(主催者推薦/私立西武台高校)
3R判定 3−0
×村越凌(関東地区3位/神奈川県立平塚農業高校)

<オープニングファイト?> ※K-1甲子園FINAL8
○日下部竜也(中部大会優勝/愛知県立豊田高校)
1R2分43秒 KO
×佐々木大蔵(関東大会準優勝/東京都立山崎高校)

<オープニングファイト?> ※K-1甲子園FINAL8
○HIROYA(主催者推薦/セントジョーンズインターナショナルハイスクール)
1R24秒 KO
×平塚大士(中部地区3位/愛知県立安城農林高校)

<第1試合>
○ユーリ・メス(オランダ/イッツショータイム)
3R2分59秒 KO
×小比類巻太信(BRAVI RAGAZZI)

<第2試合> ※第1リザーブファイト
○アルバート・クラウス(オランダ/チーム・スーパープロ)
2R48秒 TKO
×城戸康裕(谷山ジム)

<第3試合> ※FINAL 準決勝
○魔裟斗(シルバーウルフ)
EXR判定 3−0
×佐藤嘉洋(フルキャスト/名古屋JKファクトリー)

<第4試合> ※FINAL 準決勝
○アルトゥール・キシェンコ(ウクライナ/キャプテン オデッサ)
EXR判定 3−0
×アンディ・サワー(オランダ/シュートボクシング オランダ)

<第5試合> ※第2リザーブファイト
○ブアカーオ・ポー.プラムック(タイ/ポー.プラムックジム)
1R2分18秒 KO
×ブラックマンバ(インド/レボリューション・ファイトチーム)

<第6試合>※ライト級ワンマッチ
○大月晴明(AJKF)
3R判定 3−0
×梶原龍児(チームドラゴン)

<第7試合> ※ISKA世界ライト級王座決定戦
○上松大輔(チームドラゴン)
1R29秒 KO
×大宮司進(シルバーウルフ)

<第8試合> ※FINAL 決勝戦
○魔裟斗(シルバーウルフ)
EXR判定 3−0
×アルトゥール・キシェンコ(ウクライナ/キャプテン オデッサ)