第2回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の開幕まで、あと2日。連覇を狙う日本の戦いがいよいよ始まる。サムライジャパンのキーマンは? 日本のライバルは? 過日、ニッポン放送で放送中の「アコムスポーツスピリッツ」の番組内で、野球解説者の黒木知宏氏と当HP編集長・二宮清純がWBCを大胆展望した。
 イチローは1番のほうが怖い

――やはり今回のサムライジャパンで気になるのはイチロー選手です。黒木さんからご覧になられての印象は?
黒木: 普段通り、自分のペースでやっていますよ。その中で、いつスイッチが入るのか。本人も、そのタイミングを探っているのだと思いますね。実際に相手国のユニホームを見れば目の色も変わるでしょう。本番ではすごいものを見せてくれると思いますよ。

二宮: 原監督は「イチローは4番だって打てる」と言っていました。ただ、監督の理想は3番・イチロー。出塁もでき、タイムリーを期待する上で、やはり彼の右に出るバッターはいないということでしょう。
 そこでポイントとなるのは4番の役割です。イチローには足もあります。単に打つだけではなく、うまくイチローの攻撃力を生かせるバッターが求められるわけです。つまり4番ありきではなく、3番・イチローがあっての4番バッター。サムライジャパンは新しい4番のスタイルを世界に打ち出すのではと期待しています。

黒木: 4番の役割は重要でしょうね。その点では、今回の4番は、野球をよく知っていてバッティングカウントまで待てる稲葉篤紀選手のようなタイプは合っています。
二宮: 原監督は「今回のチームは左打者が多いので、右打者がポイントになる」とも言っていました。3番・イチロー、4番・稲葉となると左が続きます。強化試合では5番に右の村田修一選手が入っていました。このポイントゲッターの働きもカギを握るでしょう。

黒木: 打順は相手や選手の調子によって組み替えていくはずです。左投手が先発であれば、内川聖一選手などの右打者がスタメンに入ってくるかもしれません。どんなオーダーでも楽しみな打線になりますよ。その中でイチロー選手の3番はおそらく不動でしょう。個人的には青木宣親選手とイチローを入れ替えてもおもしろいとは思いますが。

二宮: 前回のWBCで、王貞治監督はイチローを1番に起用していました。それを途中で3番に変えて打線が機能し始めましたよね。今回は逆に「1番・イチロー」がいいかもしれないですし、ひょっとしたら「4番・イチロー」だってありでしょう。臨機応変にチェンジしていくほうがいいと思いますね。
 黒木さんが、もし日本代表チームと対戦するとしたら、イチローはどの打順だとイヤですか?
黒木: やはり1番がイヤですね。立ち上がりで不安な時に、一番いい打者が来ると気分よくスタートできませんから。3番だと、1、2番さえ抑えておけばとの計算が立ちます。まぁ、1番・青木でも充分イヤですけどね。この打線を相手にするのは、たまったものじゃないですよ(笑)。

 小松、岩田に期待

――では、黒木さんの専門である投手の中で、注目は?
黒木: 右と左でひとりずつ挙げたいと思います。まず右は小松聖投手。宮崎合宿のシート打撃では、フォークボールを多投していました。しかも、キャッチャーのかなり手前でワンバウンドしているボールが目立ちましたね。でも、これは悪くない。ボールは力が入ると、抜けて高めに浮きます。絶対に高めには投げないという意識と技術の高さがワンバウンドのボールを生んでいるのです。

二宮: 小松投手はオリックスの宮古島キャンプで野茂英雄からピッチングを指導されています。以前、野茂もフォークボールは抜けるくらいなら、ワンバウンドのほうがいいと言っていました。コーチングの成果がいい方向に出ているのでしょうか。
黒木: 投手はどうしても苦しくなると、ストライクを欲しがりますからね。低めに投げる意識を持ち続けていれば、いいピッチングを見せてくれることでしょう。

――もうひとりの左投手は?
黒木: 阪神の岩田稔投手です。ストレートはもちろん、彼には大きく曲がるカーブ、スライダーがあります。宮崎合宿では日本代表の左バッターに対して、自分のスイングをさせていませんでした。投手として最も大切なのは、相手に自分のバッティングをさせないこと。岩田はそのための武器を持っています。WBCを勝ち抜くためには左投手が絶対に必要です。彼が存在感を示してくれたことは日本にとって大きいと思いますよ。

二宮: 原監督は先発の柱は松坂大輔、岩隈久志、ダルビッシュ有だと明言しています。初戦の中国戦は正直、誰が投げても日本が負けることはないでしょう。ただ、次に韓国か台湾と当たることを考えれば、勝ち方が大切になります。ピシャと0点で抑えて日本は強い印象を相手に示さなくてはいけません。
 去年の北京五輪で優勝した韓国は予選リーグを全勝で乗り切って、その勢いのまま金メダルを獲りました。短期決戦では勢いも勝つための大切な要素です。初戦の先発投手は、その火付け役を務めてもらいたい。
黒木: 今回の方式は変則的で、次の対戦相手が戦ってみないとわかりません。先発の準備はとても難しくなります。もしかしたら、中国に勝った後の2戦目は韓国、台湾どちらでもいけるように、2人の先発を調整させているかもしれません。

――投手陣に関して不安はありませんか?
黒木: はい。それぞれが自分のピッチングをみせてくれれば、どこが相手でも、そんなに点は取られないでしょう。
二宮: 春先の大会ですから、バッターは振り込みが不足していますし、目も慣れていません。投手力が勝敗を分けることになるでしょう。その点、今回、原辰徳監督が監督経験もある山田久志コーチに投手を任せたのはクリーンヒットです。少なくとも投手力では米国、ドミニカ共和国と互角に戦えるメンバーが揃っていますよ。

 ヤマは2次ラウンド!

――東京ラウンドを通過すれば、次のサンディエゴラウンドはキューバ、メキシコ、オーストラリア、南アフリカから勝ちあがった2チームが加わります。
黒木: どこも侮れませんが、キューバさえ倒せば、なんとか上に行ける感覚はありますね。五輪野球がなくなって、彼らにとってはこの大会が最大の目標です。手怖い存在だと思います。
二宮: キューバ代表は全員がアマチュアですから、さすがにメジャーリーガーが揃う他のチームと比べれば、戦力的には見劣りするでしょう。ただチームとしての完成度は一番です。前回のWBCでも北京五輪でも決勝に進んだところに、それは表れています。案外、ドミニカや米国との対戦が予想される準決勝、決勝よりも、キューバがあがってくる2次ラウンドが最大の関門になるもしれませんね。

――最後にズバリ、優勝は?
二宮: これは神様でもわかりません(笑)。年俸だけみればアレックス・ロドリゲスのいるドミニカや、米国が頭ひとつ抜けています。しかし、ほぼベストメンバーでWBCに臨めるという点では、日本やキューバも負けてはいない。ズルイかもしれませんが、今あげた4カ国に北京五輪覇者の韓国。この中のどれかとしか言えませんよ(苦笑)。
黒木: 前回の日本がそうだったように、最後まで何が起こるかわからないのが野球です。どうなるか本当に予測がつきません。ただ、日本がぜひ準決勝、決勝の舞台でドミニカや米国と真剣勝負をするところを観てみたい。一野球ファンとして楽しみにしています。

※聞き手はニッポン放送・山本剛士アナウンサーです。

(この対談はニッポン放送「アコムスポーツスピリッツ」2月22日放送分より抜粋し、再構成したものです)
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