ドイツからどう羽ばたくか。
 ブンデスリーガでプレーする日本人選手は増えていく一方だが、ドイツで活躍してプレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、セリエAといった他の欧州主要リーグに移籍するケースは近年、ドルトムントからメガクラブのマンチェスター・ユナイテッドに移籍した香川真司(ドルトムント)ぐらいである。

 ブンデスリーガは日本人選手にとって他の主要リーグよりも働きやすい環境だとも言える。事実上、外国人枠がなく、パイオニアの奥寺康彦から始まり、高原直泰(現SC相模原)、香川、長谷部誠(フランクフルト)、内田篤人(シャルケ)を含めて日本人選手が活躍してきた歴史もある。1試合平均4万人を超す観客動員数は欧州でナンバーワンの座をキープしており、選手からしても非常にやりがいがある。今季は新たに武藤嘉紀(マインツ)もFC東京から“ドイツ組”に加わっている。

 日本人プレーヤーが密集し、ドイツ内でステップアップを図ろうとしているのが実情。しかし、マインツで2季連続2ケタ得点を記録した岡崎慎司は、5シーズンにわたってプレーした“居心地のいい”ドイツを離れる決断を下したのだ。

 移籍先はプレミアリーグのレスター・シティ。報道によれば29歳の岡崎に対して4年契約、移籍金1000万ユーロ(14億円)というのだから、レスターとしてもかなり力が入っている。

 レスターは2014-15年のシーズンで11年ぶりにチャンピオンシップ(2部)から1部に昇格したチームだ。激しい残留争いを繰り広げ、後半戦で勝ち点を積み重ねて昨季は14位で終えている。興味深いのは、そのレスターが“意中の恋人”として早い段階から岡崎に注目していたことだ。

「2年近くずっとオカ(岡崎)のことを追ってきたクラブです」
 そう語るのは岡崎の代理人を務めるロベルト佃氏である。レッジーナ、セルティック、エスパニョールと7年半にわたって海外を渡り歩いた中村俊輔(横浜F・マリノス)や、インテルでプレーする長友佑都らの移籍をまとめてきた敏腕代理人は「そんなに難しい移籍ではなかった」と明かす。

 レスターは欧州主要リーグでの日本人最多となる15得点を叩き出した13-14年シーズンから岡崎を追いかけていた。クラブ関係者は何度もマインツのホームゲームを直接訪れては、そのパフォーマンスを熱心にチェックしていたという。得点能力に加え、ハードワークとチームへの献身性は彼らの目に魅力的に映った。

 正式なオファーが届いたのは今年1月。移籍金1000万ユーロ以上という内容だったようだが、マインツのクリスティアン・ハイデルGMは断っている。しかしレスターはあきらめることなく、夏のタイミングで再度のオファーに至った。マインツとしても1部残留を果たし、来年夏で岡崎との契約が切れることからも交渉の席についたようだ。

 岡崎には今季ブンデス3位で欧州チャンピオンズリーグ(CL)の出場権を得たボルシアMGからもオファーが届いていた。ドイツは慣れているリーグであり、CL出場という経験もステップアップになる。しかし岡崎はその道を選ぼうとしなかった。

「オカには新しいことにチャレンジしたいという強い意志があった」とはロベルト氏。レスターの熱意も後押しとなり、夢だったプレミアでのプレーを選択する形となった。ロベルト氏の言葉どおり、クラブ同士、岡崎自身が納得できるスムーズな移籍だったようだ。

 しかし、レスターへの移籍は当然ながらリスクもある。プレミアは日本人フォワードで成功した例がない。ボルトンに在籍した西澤明訓も、サウサンプトンでプレーした李忠成(浦和レッズ)、アーセナル、ボルトン、ウィガンと渡った宮市亮(ドイツ2部ザンクトパウリ)も強烈なインパクトを残せず、英国の地を離れている。

 ドイツよりもプレミアのほうが個の強さを押し出してくるチームが多く、そういったリーグの特徴の変化にも対応していく必要があるだろう。つまり、より「強さ」が求められるなかでゴールという結果を残していかなければならない。

 レギュラーの座を用意されているわけでもない。昨季2トップを務めていたレオナルド・ウジョア、ジェイミー・バーディーから定位置を取らなければならない。

 敢えてイバラの道に飛び込んだということがよく分かる。“サムライ”岡崎はこれまでも試練を乗り越えてきた。彼ならプレミアの壁を突破してくれるはずである。

(このコーナーは第1木曜日に更新します)
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